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羅生門 その3

2010年12月12日 02:23

さらに、この現場には、当事者の他に、一部始終を見ていた人物がいました。それが、死体の第一発見者である杣売りなのです。関わり合いになりたくなかったからと検非違使庁の庭では嘘をついた杣売りでしたが、羅生門の下では下人相手にこの時の様子を語ります。


《杣売りの話》
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多襄丸は泣き伏している女の前で両手をつき「俺の妻になってくれ」と懇願する。何度頼んでも泣いている女だったが、急に起き上がり、「無理です。女の私になにが言えましょう」と答える。

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「わかった。それを定めるのは男の役目だと言うんだな」そういって、太刀の柄に手をかける多襄丸。しかし、男は「待て! 俺はこんな女のために命を懸けるのはごめんだ」と多襄丸を制す。さらに「ふたりの男に恥を見せて、なぜ自害しようとせぬ。こんな売女は惜しくない。欲しいというならくれてやる」と言い放つ。女は物言いたそうに多襄丸を見つめる。

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女を置いて去ろうとする多襄丸に「待って」と追いすがるも、「来るな」と制される女。
「いくらしおらしげに泣いても、もうその手に乗る者はおらぬ」と男。
「女というヤツは所詮、このようにたわいないものなのだ」と多襄丸。
どちらの男からも見放された女の泣き声は、次第に笑い声へと変わり、女の様子が豹変する。
「たわいないのはお前たちだ! 夫だったら何故この男を殺さない! 私に死ねという前に何故この男を殺さないのだ! (多襄丸にふり返って)お前も、男じゃない! 多襄丸なら、この私の助からない立場をかたずけてくれるかもしれない。そう思ったんだ。ところがお前も私の夫と同じに小利口なだけだった。覚えておくがいい。女は何もかも忘れて、気狂いみたいになれる男のものなんだ! 女は腰の太刀にかけて自分のものにするものなんだ!」

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その女の言葉と笑い声を合図に、双方の男は殺しあいをはじめる。が、どちらもへっぴり腰で、太刀は空をかすめるばかり。
ほうほうの体で、多襄丸が太刀で男を刺し殺し、女の手を携えるが、女はそれを振り払い、叫びながら逃げ去る。多襄丸は女を追いかけようとするも、疲れで動けない。少し経って、投げ出されていた男の太刀を奪い、自分もその場から逃げていった、と。


話を聞き終えた下人は「どうやら本当らしい話だ」と言いますが、杣売りの話のすべてを信じようとはしません。

相変わらず旅法師は「人が信じられなくなったら、この世は地獄だ」と嘆き、杣売りは「わかんね。さっぱりわかんね」と呟き、下人は「どうもこうもねえ。人間のすることなんて全く訳がわかんねえって話だ。わははははは」と笑い飛ばします。

そこに突然、赤ん坊の泣き声が響きます。楼門の隅に、赤ん坊が捨てられていて、傍らには着物が置いてありました。下人は赤ん坊には目もくれず、着物を剥ぎ取り持ち去ろうとします。

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それを咎める杣売り。「お、お前は鬼か!」「鬼? この俺が鬼だったら、このガキの親は何だ!」。
杣売りは着物についているお守り袋を指さし、「子供を捨てずにいられないのは、よくよくのことだ」。「けっ、人の気持ちを考えていたら、きりがねえや。てめえ勝手でねえヤツが生きていかれる世の中じゃねえや!」と下人は開き直るばかりです。
「ちくしょー。そうだ、誰も彼もてめえのことばかりだ。てめえ勝手な言い訳ばかりだ。あの盗人も、あの女も、あの男も、それからお前もーー!」そう言って穏和そうな杣売りは下人に飛びかかったのです。

ところが・・・、

「へん、そういうてめえは、そうじゃなえと言うのか。笑わしちゃあいけねえ」下人は杣売りがついた嘘に気づいていたのでした。
螺鈿を散りばめた女の短刀を、杣売りが盗んだということに。「おい! てめえが盗まねえで、誰が盗むんだ・・・どうやら図星らしいな」。杣売りは押し黙るしかありません。「盗人のくせに、盗人呼ばわりは、それこそてめえ勝手というものだ!」。

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旅法師は今にも泣き出しそうな絶望的な表情でふたりを見ています。
笑い声を上げながら、剥いだ着物を抱え、下人は雨の中を去って行きました。

後に残されたのは、肩を落とした杣売りと、赤ん坊を抱いた旅法師。雨は小降りにかわっていました。赤ん坊の泣き声はやまず、杣売りは旅法師の手から赤ん坊を取り上げようとします。

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「何をする! この赤ん坊から肌着まで剥ぐつもりか!」
杣売りは無言のまま悲しそうな顔で首を横に振るのです。
「わしのところには、子供が六人いる。しかし、六人育てるも、七人育てるも同じ苦労だ・・・」
「わたしは恥ずかしいことを言ってしまったようだな・・・」
「無理もねえ。今日という今日、人を疑らずにいられるはずがねえ。恥ずかしいのはわしだ。わしにはわしの心がわからねえ」
「いや、有難いことだ・・・。おぬしのおかげで、わたしは人を信じていくことが出来そうだ」

あれだけ降っていた雨も止み、日が差してきました。赤ん坊を抱いて立ち去る杣売り。それを見送る旅法師の影。

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