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いちげんさん その2

2010年11月12日 00:48

作者自身を思わせる主人公の“僕”は京都の大学(大学名は明記されていませんが、作者の出身でもある同志社大学でしょう)に通う留学生。
ふとしたことから、盲目の若い女性・京子のため、対面朗読のボランティアをするようになる。
京子は東京の大学を卒業後、母親と二人で黒谷にある小さな民家に住んでいた。
“僕”と京子は文学の読み聞かせを通して、次第に心惹かれ、デートもするようになった。

吉田神社04569
〈「京子の家はK大学の後ろの小高い丘に位置する吉田神社の近くにあった」(本文より)〉

“僕”にとって京都は心落ち着く古めかしい風景や建造物があり、好きな街である。
しかし、“外人”である“僕”を、そこに住む人びとは不愉快な思いにさせてしまう。
「外人だ! ハロー、ハロー!」を連発する修学旅行生。日本語の新聞を読んでいると「オー・ユー・ジャパニーズ・カンジ・オッケー?」と話しかけてくるサラリーマン。日本語で注文しているにもかかわらず、片言の英語で聞き返してくる定食屋の店主。誰もが“僕”を“外人”として扱い、街の住民は疎ましい存在でしかない。「いちいち外人という名の道化師の役を演じさせられることにうんざりだ」と。

京子は他の人たちとは違った。目の見えない彼女にとって、外見などというものは存在しないのだから。「僕と京子の関係は最初から声、肉体、言葉、といったものを媒介にして始まった、僕らを結ぶのは言葉や体の触れ合いだった」。
そんな京子と一緒にいることが、異国、しかも特殊な京都という街に住む“僕”にとっては安らぎでもあったのだ。

円山公園 桜 007
〈「下宿は知恩院と円山公園の近くにあったが、円山公園の夜桜を見るのがとても好きだった」(本文より)〉

卒業論文の締め切りも気になりだした頃、“僕”はフランス国営テレビの通訳のアルバイトのため、数週間、京都を離れた。
アルバイトは大阪のヤクザの取材だった。組の人間は“僕”を“変な外人”扱いはしない。彼らにとって他人は“仲間”か“敵”か、ということしか区別を持たない存在だったからだ。
外人であることを常に意識させられる京都に比べれば、心安らぐ数週間だった。

京子が東京で就職することを決めた。「安楽椅子に心地好く座っているような今の生活は気楽で楽しいけどね、どこにも向かっていないの。目標というか、方向性のようなものはまったくないの。それは時々私をひどく不安な気持ちにさせるの」と。
「東京って、そんなに遠くないからいつでも会えるでしょう」と問いかける京子の言葉に、「そうだね」と曖昧に答えた“僕”であったが、卒業を機に、新たな心の風景を探す旅に出たいと日本を離れることを決意していた。



格言云々で、否定的なことを述べましたが、プロットや設定はホント独創的ではあるのです。
ただ、文中で主人公自らの口で語らせているように、主人公の“僕”は少々被害妄想の癖があります(京都はむしろ観光客の多さから言っても、他の都市より外国人には慣れているはずなんですよね・・・。しかも40年、50年以上も前の話ならともかく、物語はベルリンの壁が崩壊した1989年のことですよ)。
ほかにも、「ボヘミアンのように移動を繰り返すことが自分の本性であり、宿命みたいなものになっていた」“僕”が、その流れで京都にたどり着き、外人であることを常に意識させられる京都独特の雰囲気は息苦しい・・・と不満を垂らすってどういうこと?! と突っ込みどころも満載です。
まあ、主題や題名を浮き彫りにするためには致し方なかったのでしょうけれど、もう少し物語のブレを少なくして欲しかった。


印象的だったのは序盤で京子が煙草を吸うシーンかな。
レイモンド・カーヴァーの「大聖堂」を思い出しちゃいました。

「私はどこかで盲人は煙草を吸わないという記事を読んだことがあった。自分の吐き出す煙を見ることができないからではないか、というのがその理由だった。私はこと盲人に関してはそれだけは知っているつもりでいた。もっともそれ以上は何も知らなかったけれど。しかしこの盲人は短くなるまでたっぷりと煙草を吸い、吸い終わるとすぐ次のに火をつけた。」
(「大聖堂」レイモンド・カーヴァー・著、村上春樹・訳より)

やれやれ・・・。





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