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檸檬 その2

2010年11月05日 00:42

初出は1925(大正14)年1月創刊号の『青空』。
しかし、その前年(1924年)に執筆された習作「瀬山の話」の中に小説「檸檬」と同様の逸話が挿入されています。
さらに、その前(1922~23年頃)には、習作の詩「祕やかな樂しみ」が書かれ、いくつかの変遷の末に、名作「檸檬」が出来上がったことがうかがえます。

そもそも『青空』の創刊号には「瀬山の話」を載せようと頑張っていたらしいのですが、創刊のための広告取りなどの準備と重なり、断念。「瀬山の話」の瀬山の独白部分を「檸檬」として独立させて完成させたのです。

(ちなみに、「瀬山の話」の主人公・瀬山極とは、梶井基次郎が1923年の劇研究会の回覧雑誌『真素木(ましろき)』に“瀬山極”のペンネームで創作「奎吉」を発表したりして、お気に入りの名前だったようです。由来は、ポール・セザンヌをもじって、とのこと)

「瀬山の話」と「檸檬」を読み比べれば作者の意図や感性の変遷があぶり出されおもしろいのでしょうが、ここではそんなこむずかしい考察はしません(笑)。また機会がある時にでも・・・。
ありていに言えば、両作はテンポが違います。「瀬山の話」は少しまどろっこしく、説明口調で・・・まあ、習作の段階だから致し方ないのでしょうが。


20101104132106f6e[1]

「檸檬」「瀬山の話」「祕やかな樂しみ」が現在、手軽に読めるのは『梶井基次郎全集 全一巻』(ちくま文庫)。習作や遺稿も網羅されていて、お得です(活字が小さいですけれど・・・)。


この小説の舞台となった「丸善京都店」は2005年10月に閉店し、さらに主人公が檸檬を買った「八百卯」は2009年1月に閉店しました。

梶井基次郎のいた頃の丸善は、1907年から三条麩屋町で営業し、1940年に河原町蛸薬師へ移転しています。
八百卯は寺町二条の角にあり、1879年創業の老舗果物屋。ビルになってからは2階でフルーツパーラーも営んでいました。
1階の寺町通りに面したショウウインドウには、いつもレモンが飾られ、小説「檸檬」の説明書きも置いてありましたね。

20101104131406906[1]

ちなみに、この店の北に接する二条通りの緩やかなカーブは、かつて市電が走っていた頃の名残なのです。

寺町通りは、「犬を賣る男」(1924(大正13)年頃の草稿)で、孤独でみじめな主人公が目にする“犬を売る奇妙な露店”が出ていた場所でもあります。

201011041314077a0[1]


大谷晃一氏(帝塚山学院大学名誉教授)の書いた文章(『国文学 解釈と観賞』平成11年6月号)によると、
三高に入学した梶井は、ほどなく酒に親しみ、肺病からくる倦怠もあって、勉学も怠けがちになります。お初という名のウエイトレスに熱を上げ新京極の江戸カフェーに頻繁に通ったり、寺町の東洋亭(河原町丸太町を上がったところにある創業大正6年の「東洋亭」でしょうか)の芳枝という女性にも恋心を抱いたり・・・。しかし容姿のコンプレックスもあってか、うまくはいきません。

檸檬_0002
〈『新潮日本文学アルバム 梶井基次郎』表紙より〉

だれですか。ゴリラ顔なんて言っているのはっ。文章は顔で書くものではありません。
でも、そりゃそうですよね。肺病もちで、繊細な文章・・・。誰もが優男を想像するはずです。


最後に、「檸檬」のモチーフとなった詩「祕やかな樂しみ」を、記しておきます。


   祕やかな樂しみ

一顆の檸檬(レモン)を買ひ來て、
そを玩ぶ男あり、
電車の中にはマントの上に、
道行く時は手拭(タオル)の間に、
そを見 そを嗅げば、
嬉しさ心に充つ、
悲しくも友に離りて、
ひとり 唯独り、我が立つは 丸善の洋書棚の前、
セザンヌはなく、レンブラントはもち去られ、
マチス 心をよろこばさず。
独り 唯ひとり、心に浮かぶ樂しみ、
祕やかにレモンを探り、
色のよき 本を積み重ね、
その上に レモンをのせて見る、
ひとり唯ひとり數歩へだたり
それを眺む、美しきかな、
丸善のほこりの中に、一顆のレモン澄みわたる、
ほゝえまひて またそれを とる、冷さは熱ある手に快く
その匂ひはやめる胸にしみ入る、
奇しことぞ 丸善の棚に澄むはレモン、
企らみてその前を去り
ほゝえみて それを見ず、

『梶井基次郎全集 第一巻 筑摩書房』より


20101104131410d50[1]

寺町通りの中でも、北は丸太町通りから南は御池通りの区間は、一保堂茶舗、古梅園、紙司柿本をはじめとする老舗や古美術店、画廊などが並び、少し昔の京都の風趣を感じることができます。もちろん観光客にも人気のある通りです。






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