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檸檬 その1

2010年11月05日 00:36

檸檬 梶井基次郎 1925年


「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。」
居たたまれない“私”は、街から街を彷徨いつづける。


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〈寺町丸太町の交差点。一時(1923年5月~翌年1月頃)、梶井基次郎がこの近くに下宿していたことも〉


その頃、“私”が好きだった場所は丸善。
「赤や黄のオードコロンやオードキニン。洒落た切子細工や典雅なロココ趣味の浮模様を持った琥珀色や翡翠色の香水壜。煙管、小刀、石鹸、煙草。私はそんなものを見るのに小一時間も費すことがあった。」
しかし、今の“私”にとっては丸善も重苦しい場所でしかない。


20101104131519870[1]


街を歩く“私”が足を留めたのは寺町二条にある一軒の果物屋。
「店頭に点けられた幾つもの電燈が驟雨のように浴びせかける絢爛は、周囲の何者にも奪われることなく、ほしいままにも美しい眺めが照らし出されているのだ。」


20101104131409880[1]
〈鎰屋(当時あった菓子屋で、2階が喫茶店になっていた)の2階から眺めた果物屋がたいそう美しかったとか。写真のコンビニエンスストアの入るマンションが鎰屋のあった場所です〉


「いったい私はあの檸檬が好きだ。レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰まった紡錘形の恰好も。」
その果物屋でレモンを一つ買って、手にすると“不吉な塊”もいくらか弛み、幸福になった。さらに歩き、たどり着いたのは丸善の前。


20101104131409568[1]
〈当時、丸善は三条麩屋町西入にありました〉


丸善に入ってはみたものの、それまでの幸福な感情は逃げていく。棚の前で、以前はひきつけられた画本を引き出しバラバラと捲ってみる。が、戻すのも億劫になってしまう。
「『あ、そうだそうだ』その時私は袂の中の檸檬を憶い出した。本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この檸檬で試してみたら。『そうだ』」
手当たり次第に本を積み上げ、「奇怪な幻想的な城」を築きあげる。そして、その頂にレモンを据え付けた。

「見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。」
そして、“私”はもう一つの奇妙な企みを実行した。
 ――それをそのままにしておいて私は、なに喰わぬ顔をして外へ出る。――
「丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。」






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