ヒポクラテスたち その1

2010年08月23日 16:41

ヒポクラテスたち 監督・大森一樹 1980年 ATG

ヒポクラテスたち DVD
 
青春って、いつの時代も騒々しいものなんです。
騒げば将来に対する不安を振り払えるとでも思っているのでしょうか。

それにしても、この映画は素晴らしい青春群像劇です。
1980年度キネマ旬報ベストテン日本映画部門第3位(1位は『ツィゴイネルワイゼン』で・・・9位には『狂い咲きサンダーロード』が入っていますネ)。

さて、『ヒポクラテスたち』の主人公は古尾谷雅人演じる洛北医科大学6回生の荻野愛作。
彼を取り巻く臨床実習仲間や、寮仲間との日常を描いた作品です。

医大の最終学年はポリクリと呼ばれる臨床実習にあてられ、
6、7名に分けられた学生グループが、内科や外科やさらには眼科まで、17くらいの科を一週間毎のローテーションでまわり、
自分が専門的にどの科に進むのかを決めるのです。
描かれているのは、生と死の狭間で、少なからずの死に直面し、苦悩と不安に揺れる医者の卵の姿。

ヒポクラテスたちWS000034_convert_20100823191049〈三条京阪の歩道橋〉

時代は1970年代の後半あたり。舞台は京都。
まだ学生運動の残り火もくすぶり、寮の中では右の思想から、左の思想まで、そして学生運動をドロップした者もいて、
内ゲバならぬ“プチゲバ”(ちょっとした喧嘩のことね・・・)があったり。
医療現場の現実と社会の矛盾、そして自分の理想とのギャップに戸惑い、頼りないながらも真摯に生きている学生の姿はリアルで切実です。
といっても、全編を通して“軽み”をもって描かれ、その軽快なタッチがさらに青春度を増しているのですが。

今見ると、通りを走るバスや車のかたちも古めかしく、
三条京阪には歩道橋があったり(もちろん、京阪電車はまだ地上を走っていて、三条から出町柳の間は路線すらもありません)、
そう、バブルの狂騒もまだ来ていなかった京都の懐かしい風景が、ことさら郷愁を誘うのです。

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〈荒神橋のたもとの喫茶店「リバーバンク」〉

よくもまあ、これだけの登場人物がいて、話が破綻もせず、
なによりすべての人物が印象に残る作品も珍しい。
京都府立医大出身の監督が、しかもその大学をモデルにして制作しただけに(登場人物にまでモデルがいたのかどうかは知りませんが)、映画作りへの思いもひとしおだったのでしょう。
そして、今はもう引退してしまったであろう学生役の俳優たちも、画面の中でみんなキラキラしているのが、さらに切なさを募らせます。

はたして今の医学生は、こんな映画があったことを知っているんでしょうか。





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