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五番町夕霧楼 その2

2010年10月03日 23:05

夕霧楼の女将・かつ枝は、単身で故郷の与謝半島(丹後半島)に疎開していた旦那・酒前伊作の最期を看取り、葬式を済ませて京都に帰ってきた。
そのとき一緒に連れてきたのが、19歳の片桐夕子だった。
病身の母、甲斐性のない気弱な木樵の父、そして幼い3人の妹のために自ら覚悟して遊郭に来たのだ。

夕子はすぐに、西陣の織物問屋で羽振りのよい60歳過ぎの竹末甚造に気に入られ、当時のサラリーマンの月給5ヵ月分に相当する2万円で水揚げされる。
不幸な境遇の夕子に、女将のかつ枝は実の子のように優しく接してやり、
また夕子の素直でおとなしい性格もあって、他の8人の先輩芸妓からも温かく見守られ、一人前の娼妓へと成長していく。

妻を亡くし、長男夫婦と離れ、一人で暮らしていた竹末は、夕子を妾にほしいとかつ枝に申し出るが、夕子の幸せを思うとかつ枝は気乗りではない。
そんな中、初めて夕子は一人で町へ散歩に出かけた。
その日を境に、吃音の学生が夕子の客としてやって来るようになる。陰気で挨拶もろくにしない若者だったが、目が澄んでいるのが印象的だった。

DSC04700[1] 〈現在の五番町〉

ある日、竹末と櫟田正順というその若い学生が偶然、夕霧楼で居合わせてしまう。
その後、竹末は春の展示会の会場となっていた燈全寺(モデルは相国寺)で、修行僧の櫟田を見かける。
懺法会の回向の稽古の為に、本来の修行の場であった鳳閣寺(モデルは金閣寺)から本山に来ていたのだった。
すぐに夕霧楼のかつ枝に竹末は耳打ちする。「あの学生は鳳閣寺の小僧やでェ」と。
かつ枝は思い当たることがあった。夕子が京都に来た日、葉書を書いていた中に鳳閣寺の櫟田宛の葉書があったことを。

夕子を心配したかつ枝は、櫟田が鳳閣寺の僧であることを夕子に問いただす。
学生僧が十日と空けず廓に通うことが出来るというのが不思議で、もしや夕子が櫟田の為に花代を立て替えているのではとの疑念を抱いたのだ。

夕子は観念し、説明する。櫟田はかつ枝の旦那・酒前の葬儀をした浄昌寺の子どもで、夕子とは幼馴染みであることを。
和尚である櫟田の父親は実の父ではなく、母の連れ子として寺に入ったこと。そして小さい頃から吃音を人にバカにされ、京都の寺に修行に来てからも仲間からいじめられ、「坊さんになりたくない」と、夕子に打ち明けているという。出生にまつわる暗い屈辱に耐え、生きてきた若者だった。

同じような不幸な境遇から櫟田に惹かれた夕子を理解できなくもないが、かつ枝は櫟田との付き合いを改めるよう言いくるめる。
廓で稼いだ金をその若者に貢いでいる夕子をいっそう哀れに感じた。

櫟田と夕子の関係にかつ枝が気をもんでいる時、竹末が櫟田の情報を仕入れてきた。それは夕子が言っていたことを裏付ける話だった。
そして、「宗務所の坊さんにいうたった。あの櫟田は、十日にいっぺんほど、五番町へゆきよって、夕霧の妓ォにうつつをぬかしとる。そんなことが世間にしれたら、鳳閣さんも、評判おとしまっせいうたった」と竹末は告げ口したというのである。
それ以来、櫟田が夕霧楼に姿を現すことはなかった。

DSC04721[1]
〈当時の面影を微かに残すT字路〉

突然、夕子が喀血をした。母親と同じように肺病を病んでいたのだ。
かつ枝が竹末に「一度会いに来てくれ」との電話をしても、商売に忙しいのか、つれない返事だった。所詮、竹末も夕子にとっては赤の他人だと、かつ枝は痛感し、夕子を不憫に思った。

ずっと部屋で養生していた夕子だったが、肺外科の権威がいる病院に入院する。大事にいたる前に、疾患部の根絶をはかった方が良いとのかつ枝の親心だった。
そして、かつ枝は櫟田に夕子の入院のことを知らせようと鳳閣寺に向かう。竹末の告げ口によって老師から叱られ謹慎の身である櫟田に。
櫟田は夕霧楼に来て夕子と会っている時だけが、昔、兄妹のように夕子と寺の百日紅の木に登って遊んだ楽しく明るかった頃に戻れたのだ。それは夕子にとっても同じことだった。

鳳閣寺で、かつ枝は櫟田から夕子に言付かった。「もうすんだ、安心せい」という言葉を。そう言ったきり、櫟田はかつ枝の元から走り去った。
かつ枝が鳳閣寺を訪れたその日の深夜、鳳閣寺が炎上した。その燃える様子を、五条の病院の一室から夕子も見ていた。

ひと月後、櫟田は留置所で自殺を図り、死亡した。その死亡記事の出た日、「町へ涼みに行く」といったまま夕子は病院から失踪する。
夕子の死骸が見つかったのは故郷、浄昌寺の裏にある墓地の百日紅の根元だった。






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