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雁の寺 その5

2011年09月13日 23:23

1963年に45歳で亡くなる川島監督にとっては、若いながらも晩年の作品にあたり、当時、東宝系の東京映画に所属していた川島監督が、大映でメガホンをとり評判を生んだ三作品のうちの一つ(他は『女は二度生まれる(1961年)と『しとやかな獣』(1962年)で三作品とも若尾文子が主演)。しかし大映“京都”制作としては『雁の寺』が唯一の作品となりました。

『雁の寺』は、同じく大映京都が3年前に制作した『炎上』(監督・市川崑、主演・市川雷蔵、1958年)を強く思い起こさせます。
舞台が寺院であることはもとより、鬱屈した修行僧による放火(『炎上』)と、殺人(『雁の寺』)という帰結。
戒律の厳しい寺院内での金銭欲、色欲がモチーフとなっていること。
モノクロのシネマスコープによる格調高さを狙った映像。
美術の西岡善信、照明の岡本健一をはじめとする大映京都を代表する共通の制作陣。
放火による焼失によって、以前よりも雄壮で金ピカの金閣が建てられ、さらなる観光名所となった金閣寺。そして慈念がはぎ取った母雁を修復して、洛北の一大観光ルートとなった“雁の寺”こと孤峯庵の現代の姿を描く最後の場面など・・・。


そしてこの作品を語る上で欠かせないのが、村井博による斬新なカメラワークです。
大映には『炎上』を撮影した名カメラマン・宮川一夫がいましたが、村井博の『雁の寺』でのカメラワークは日本映画の中でも出色として今でも語られ、派手ではない映画のストーリーを飽きさせず魅せることに成功しています。

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あたかも地や壁を這う虫の目線のようなアングルや、止まり木に止まった鳥の視線を思わせるアングル・・・。

WS001134_R.jpg 〈土葬の場面〉

ちなみにカメラマンの村井博は若尾文子の義兄でもありました。

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仏像なめの情事の場面。

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また、作品冒頭は、慈念(高見国一)の肥汲みの場面が執拗につづく点も、排泄を食事と同等に扱う川島雄三ならではの演出。



映画が原作と大きく違うのは、最後に挿入されたシーンです。

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映画の最後は一転、軽快な音楽とともに突如カラー映像となり、観光客の案内役の僧として、「撮ったらあかん。無断で写真を撮ったらあきまへん!」と小沢昭一が登場。

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ここで物語から数十年後の孤峯庵が修復された襖絵により“雁の寺”として観光名所となっていることを知らされるのですが、小沢昭一はカメラで襖絵を撮ろうとする外国人客を遮り、「絵はがき買うてください。売店で売ってますさかい」といい、画面には寝ている売店の老婆が映し出され・・・映画を観る者に対し、この老婆の姿をもって、したたかに寺に居残った後の里子(若尾文子)か、と思わせる・・・演出です。

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この映画のロケ地は、等持院、天竜寺、京福嵐山駅、上七軒など。

WS000469_R.jpg 〈嵐電嵐山駅〉

WS000768_R.jpg 〈上七軒〉

天竜寺の法堂内の撮影では、かつて天井に描かれていた鈴木松年作「雲龍図」も出てきます。

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「雁の寺」のモデルとなり、今も“雁の寺”として観光寺院となっている相国寺の塔頭・瑞春院は、水上勉が口減らしのため、郷里の若狭から10歳だった1930(昭和5)年に入れられた寺でした。その後、妻帯し子どももいる師僧の“偽りの仏門生活”に耐えきれず、13歳の時に出奔。
そして次に預けられたのが衣笠山の麓にあった等持院だったのです。
当時の等持院は荒んだ禅寺で、敷地内には「等持院撮影所」という映画撮影所(この地に撮影所を作ったのは牧野省三)がありました。
朝敵であった足利尊氏をまつる等持院を人は顧みることなく、寺は苦しい経営状態で、敷地を切り売りしていたのです。
水上勉は、その等持院をも18歳の時に去り、僧侶としての生活を終えるのですが、そこで体験した“人間苦”が後の作品に色濃く投影され、この「雁の寺」が代表作となるのです。

還俗してから二十数年後に、自らが僧堂生活を送っていた等持院で、自分の作品の映画ロケが行われたというのは、なかなかに言い表せない感情だったのではないでしょうか。





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