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八月の犬は二度吠える その3

2011年08月22日 23:52

最初は単なる賀茂川の土手で騒いだロケット花火大会のおもしろさが忘れられないため、その大がかりな余興程度に思いついた「“犬”文字焼き」の計画。

DSC02286_R.jpg

ところが、「八月の犬」作戦を直前にして起こった重大事件は、二十四年もの間、六人それぞれの中で大きな重荷や複雑な感情となってわだかまり、山室をして毎回あれほど懐かしがっていた京都の地からも遠ざけることとなります。もちろんその原因は全て山室の浅はかな行為から始まっていたのですが・・・。

そんな山室に対して一番複雑な感情を持っているはずの長崎が、二十四年もの空白をおしてでも山室を呼び出し、人生の最期に「もう一度、『八月の犬』をやりたいんだ」と懇願するのには、もはやこの行為がイタズラの領域を超えてしまっていることは推して知るべしです。

ただ、二十四年の時は、六人それぞれの人生をも大きく別の地点へと追いやっていました。
公務員や銀行員として堅実に働いている者。
描いた人生通りに歩めず、今をただ余生と思って無為に過ごしている者。
人生をドロップアウトし、精神を病んでしまった者・・・。
学生時代にはみんなから慕われ、余命少ない長崎たっての強い希望であっても、自分の今の生活を考えれば、そう易々と犯罪である「八月の犬」作戦を実行に移すわけにもいかないのです。

しかし、二十四年前の贖罪から「八月の犬」をなんとしてでもやり遂げようとする山室や、長崎の看病をする現在の恋人・青山七海が“犬”の文字に彼の病気の回復を託す強い思いが交差し・・・、果たしてかつての仲間は集まってくるのか・・・、そして24年ぶりの「八月の犬」作戦は成功するのか・・・。

たんなる学生時代のイタズラから始まった彼らの「八月の犬」作戦は、二十四年前の“鎮魂”と、長崎の奇跡の回復を願う“祈り”という、大きな意味をはらんで、2006年戌年の8月16日を迎えるのです。


DSC02490.jpg

人々が「大文字」を見て亡き人を思って祈るように、物語の最後には、この小説の登場人物たちにとって「“犬”文字」はそれに匹敵するだけの思いと祈りを含んだ一大行事へと昇華していました。

盛大な祭りの後には、必ずそれに見合う哀愁がつきもので・・・この小説にも、描かれた学生時代の乱痴気極まるバカ騒ぎの分だけ、大きな哀愁が読後感として残るのです。


この物語は、大半がフィクションのようですけれど、実際、「大文字」を「犬文字」に変えるイタズラは予備校時代に著者のまわりの学生が計画していたものらしく、それをアイデアとして描いたのだとか。
実際、予備校の寮から女性の部屋が見えたというエピソードはたびたび著者がラジオなどでも語っていたことから、学生時代のエピソードの多くはまんざら虚構でもなさそうです。

まあ、悪ふざけであっても、大文字を“犬”文字にするんだったら、これくらいの動機がなきゃ・・・ですね。

深夜ラジオで楽しませてくれた鴻上尚史が、まだ創作者としても終わっていないどころか、当時のパワーそのままに小説に仕立てたこの作品・・・いや、間違いなく名作でしょう。
しかし、これほどの小説が直木賞の候補にも挙がっていない日本の文学界って、大丈夫なの?





コメント

  1. ebisumaru | URL | -

    昨日、読み終えました。っていうか、一気に読んじゃいました。1958年生まれの作者が浪人生活を終え、東京の大学へ進学した春に、私は、京都での大学生活を始めました。学生アパートは、当時新興住宅街だった西賀茂。最寄のバス停が「西賀茂車庫前」でしたから、駿台の寮よりも奥ですよね。御薗橋も、そのたもとの餃子の王将も、よ~く知っています。
    息子が、京都の大学なのに校舎のある滋賀県に住んでいます。京都で学生生活を送らせてやりたかった、親の勝手な思いです(笑)
    よい本を紹介していただきました。ありがとうございます。

  2. t.okuno | URL | -

    おっ、読まれましたか。京都に住んだことのある人で、あの小説が面白いと思わなければ、ちょっとその人の感性を疑います(ってくらい、おもしろかったでしょ?)

    当時は北山通ですら、田んぼや畑ばかりでしたから・・・そう考えると街は変われど、王将と天下一品はいつの時代も揺るぎないですねえ。

    京都の大学なのに、キャンパスが滋賀・・・学生時代を京都で過ごされたebisumaruさんの淋しい親心、わかります。でも、まじめに勉強するには何もない滋賀の方がいいのかも知れませんね(苦笑)。

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