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新撰京都名所圖會 その3

2011年05月03日 01:50

『新撰京都名所圖會』の制作は画・文ともに竹村俊則が単独での執筆で、1957(昭和32)年4月から1964(昭和39)年10月にわたる7年6ヶ月間に及びました。これは当初の計画5ヵ年を遥かにオーバーし、途中から執筆に熱が入りすぎたことと、健康を害したことが遅れた理由だったようです。

従来の名所案内記の「小さな社寺はもとより史蹟・傳説、古墳をはじめ、年中行事・風俗習慣・名物名産・新らしい産業文化施設等にわたつてくわしくしるされたものはきわめて少なかつた」ことを不満とし、地方人よりもむしろ京都人を対象とした「郷土史的な案内書」とするべく執筆には留意したとのこと。
そして、掲載されている鳥瞰図は『都名所図会』(1780(安永9)年刊行)と同一角度から描くという粋な計らいが施されています(少し画が小さいのが残念ですが・・・)。

挿入される鳥瞰図や絵は400点に及ぶ膨大な数ですが、この緻密さにも目を奪われます。同志社大学の画は縦80センチ、横110センチに及ぶ画用紙に、実地下検分から作画完成までに二週間を費やしたそうで、府立医大や立命館大も各一週間かかったのだとか。

新撰京都名所圖會 巻三 同志社大学
〈同志社大学(『新撰京都名所圖會』巻三)〉

洛中の項目の制作秘話として、小路・横丁をしらみつぶしに廻るため自転車を用い、繁華街のスケッチは交通事情を考慮し早朝に行ったこと。社寺建築よりビル建築、特にゴシック建築が画として描きにくかったこと。そして鳥瞰図を描くにあたり、屋上にどのような構造物があるのか、地上からではわかりにくいのにも閉口したことを挙げています。

新撰京都名所圖會 巻四 烏丸三条
〈烏丸三條(『新撰京都名所圖會』巻四)〉

当時の白川書院もなくなり『新撰京都名所圖會』も絶版となっていましたが、1980年から『新撰京都名所圖會』を改訂加筆した『昭和京都名所圖會』(全七巻)が順次刊行されることとなります(1989年に完成)。出版元は京都を代表する大型書店・駸々堂。しかし、その駸々堂も2000年には倒産し、『昭和名所圖會』もまた絶版となり・・・。

R0010016.jpg 〈『昭和京都名所圖會』(全七巻)駸々堂出版〉

『昭和京都名所圖會』は洛東上、洛東下、洛北、洛西、洛中、洛南、南山城の全七巻からなっていて、推薦の帯文は、林屋辰三郎(当時、京都国立博物館館長)。
1957年に雑誌に連載し始めた頃は、単行本になることを想定しておらず、最初に書き出した東山方面の内容を簡略にしたまま『新撰京都名所圖會』を出版したことが、竹村にとっては心残りでもあったのでしょう。
新しく出した『昭和京都名所圖會』では、洛東に関して二巻に分けるほどの大幅な加筆がなされています。
さらに全編にわたって町の変化に応じ前作を加筆修正していますが・・・、前作のもつ魅力はまったくもって半減してしまいました。前作は昭和30年代という、古き町並みが新しく変わろうとしている姿も含めて興味深かったわけで、この焼き直しは必要なかったような・・・。


『新撰京都名所圖會』の本の帯には『都名所図会』を意識して「百年間のベストセラー」と銘打たれ、著者の竹村俊則も「どうかこの本を大切にして子孫につたえていたゞきたい。本書が眞に利用されるのは、百年二百年後にあると思うからである」と語っていますが・・・出版から五十年。執筆当時に竹村が思い描いたよりも早く、この町は変貌を遂げてしまったようです。

高度経済成長は町の姿を大きく変え、特に洛中の名所旧跡は今やビルの谷間に埋もれ、もう鳥瞰図で表すこともできそうにありません。

おそらく現代の京都の町並みを見るとき、もう平成以降の「名所図会」を作ろうとする人もいないでしょうし、町としての魅力をなくしてしまった現在の京都の姿を残す必要もないのかもしれません。

新撰京都名所圖會 巻四 革堂 下御霊社 
〈革堂 下御霊社(『新撰京都名所圖會』巻四)〉 

しかし・・・、古い建物の中にちらほらとビルが建ちつつあった昭和30年代。京都の町が最も激しく移り変わろうとしていた、“一番おもしろい時代”“町の成長期”を切り取った「名所図会」。この名著『新撰京都名所圖會』を復刊して、郷土史の資料としてだけではなく、現代の町並みと比較して気軽にノスタルジーに浸れるくらいの余地は、あってもいいと思うのですがねえ・・・(まっ、需要もないでしょうし、出版不況にあえぐ中で再刊しようという奇特な出版社もないのでしょうが(苦笑))。


新撰京都名所圖會 巻三 護王神社 【車や市電】
〈護王神社(『新撰京都名所圖會』巻三)より 図会の道にはいたるところに懐かしい市電や、時代を感じさせるボンネットバス、レトロな自動車が走っています〉

新撰京都名所圖會 巻二 宇多野ユースホステル
〈宇多野ユースホステル(『新撰京都名所圖會』巻二)より 上空には戦闘機が二機も(笑)。『新撰京都名所圖會』には、空の空白の寂しさを埋めるように、意味もなく数々の飛行機が描かれていましたが、『昭和京都名所圖會』では、ことごとく、その遊び心も消されてしまっているのが残念〉

新撰京都名所圖會 巻三 岩神祠
〈岩神祠(『新撰京都名所圖會』巻三)より サザエさんとワカメちゃんも特別出演です!〉





コメント

  1. ぽん | URL | -

    うむむむ。こんなマイナーな秘密兵器を出してこられるとわっ。
    ぜひとも一度お目にかかってみたいです。

    中学生の頃この書物に出会い、挿し絵の素晴らしさに惹かれて小遣いはたいて揃えました。サザエさんがちょこちょこ出てくるのを見つけるのが読書のもう一つの楽しみで←そっちのほうが大きかったかも。
    あの時、よく買っておいたと今も思います。移転したお寺や、失われてしまった光景がしっかり描かれているのですから。もちろん新版も持っていますが、値打ちあるのは旧刊ですよね。とはいえ、新刊からでもだいぶ京都の街は変わってます(泣)

    晩年の竹内さんにNHK京都放送局の記念講義でお目にかかりましたが、お年を感じさせない矍鑠とした方でした。

  2. t.okuno | URL | -

    京都は1960年代がいちばん町としておもしろい表情をもっていた、というのがささやかな持論です(笑)。

    新版の『昭和~』では、交差点の町並みや、大学の全景なんかもすべて削除されていて、書物としての味はなくなっていましたねえ。

    その中でも、六角堂の変わり様だけは、ちょっと注目ですけど・・・。

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