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廓 その2

2011年02月09日 00:09

DSC01930[1] 〈京阪中書島駅〉

長編小説『廓』は、中書島の遊郭をめぐる親子二代にわたる物語です。


時は明治39(1906)年、日露戦争の翌年。
鰐口貫太が妻のお銀をともない、裸一貫で叔父を頼りに、中書島にやってきた。
貫太は金の鬼となる覚悟で、貫銀楼という廓を開店する。
豪腕で切れ者の貫太は、古参の同業者や、あこぎな警察、地元を仕切る碇川組、廃娼を訴える救世軍、そんな一筋縄ではいかない輩を相手にのし上がり、いつしか中書島を仕切る大物となって、貫銀楼も界隈を代表する大店へと成長させた。
しかし、家庭の幸福は長くは続かない。貫太を支えたお銀が小さな一人息子の俊太を残し、病で他界してしまう。
俊太の面倒を見る必要から、貫太は後家となって生活に困っていたお銀の姉・お常を後添いとして娶る。

DSC01984[1]

中書島で廓を開いて25年、貫太は56歳となり、中書島の大物から、京都の色町の立役者となっていた。
明治末期に貫太が流れてきた当時、三十数軒しかなかった中書島の女郎屋も、六十数軒に増え、百人あまりの娼妓が二百数十名に増えていた。
その一方で、世間では廃娼運動が盛り上がり、帝国議会の日程に上るほど娼妓の人権が問題となる。昭和6(1931)年のことだった。
貫太は廃娼運動の先鋒を担う代議士を買収するため、関西の色町を代表して大金持参で上京する。
東京には東京帝大の学生となった息子の俊太が生活していた。学歴がなく、女郎屋を営む父親からすれば、大学で勉強している一人息子は何物にも代え難い誇りでもあった。
ところが、当の息子は、勉強もせず、酒を飲んでばかり。さらには多額の金をアカの友人に融通し、特高警察に捕まえられる始末。
不良学生となった背景には、自分が娼妓の稼ぎで生活してきたという終生の後ろめたさがあった。
なまじ真面目で小心者の俊太は、社会の仕組みに疑問を持ち、自らも赤化していく。

DSC02084[1] 〈弁天寺こと長建寺の境内〉

戦後、占領軍の施策で「公娼の存続はデモクラシーの思想に違背し・・・」という通達が出たものの、依然、遊郭は赤線地帯として堂々と存在していた。
しかし、あれほど隆盛を誇った中書島の貫銀楼は、隠居生活にある貫太とともに閉店状態。
息子の俊太は戦後の混乱の中で失業者となり、妊娠中の新妻を連れ、貫銀楼の離れに身を寄せていた。貫太の畠仕事を細々と手伝いながら、共産党の細胞活動に加わっていたのだ。

余命少ない貫太の葬式代にも窮迫する生活の中で、店子を二束三文の値で手放さねばならず、それでもようやく貫太の葬式を出した後に残ったものは、当の貫銀楼のみ。
俊太はこの店を売り払って、今まで忌み嫌っていた廓内での生活から脱し、就職先を見つけようとするが、共産党員である過去が就職の妨げとなり、店を売り払おうにも廓内の建物を素人が邸宅として買うはずもない。
ならばと、いったん切れていた営業権を取り戻し、女郎屋として営業しながら買い手を探す策をとる。ここに“アカにかぶれた帝大出の主人”が経営する、何とも奇妙な女郎屋が誕生したのだった。

DSC02099[1] 〈弁天橋〉

俊太は女郎屋の主人となり、はじめて父親が歩んできた仕事の大変さに気づく。
遠方まで娼妓を買いに行き、買えば買ったで逃げられまいかと心配し、開店資金で借りた金の返済に頭を悩ましつづけ、娼妓が病気になり、はてはヒロポン中毒にもなり・・・。
商才も、女郎屋に身をやつす信念もない彼の経営がうまくいくはずもなく、借金はますます積み重なり、彼はついに自殺をも考えるようになる。
そして「自分自身のまともな人間としての資格を否定して、救いがたい罪悪感になやみつづけ」る中で、「廓というこの世界――普通の人々には想像もつかない『恥部』を、ただ理屈で割り切るだけではなく、なまなましい細部まで描写して、できるだけ冷静に記録しておくということ――それが自分の最後の仕事ではないか」と思いはじめる。廓の一室で、夜中、どこに発表するあてもない原稿を書き続けた。
とうとう、俊太の女郎屋稼業は三年で終わりを告げる。税金を納めることもできず、店が競売にかけられる直前に来ていた。
そして廃業届を出し、残っていた三人の娼妓の身の振り方も落ち着いたところで・・・、奇蹟的に、彼が書きためていた原稿が売れたのだった。





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