肉体の盛装

2012年12月13日 22:43

肉体の盛装 監督・村山新治 1964年

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『肉体の盛装』(東映、監督・村山新治 1964年)は、新藤兼人の名脚本で撮影された『偽れる盛装』(大映、監督・吉村公三郎、1951年)のリメイクです。

これほど忠実に焼き直している作品も珍しい。

WS000436.jpg 〈四条大橋〉

前作品と本作品との甲乙は、むしろ監督の手腕云々よりも、配役や時代性で付けたいところですが・・・個人的には吉村監督の『偽れる盛装』のイメージが強すぎ、後発の『肉体の盛装』は影の薄い作品となってしまっています。

主演・君蝶役の佐久間良子も艶やかでいいのですが、『偽れる盛装』での京マチ子の気の強い芸妓を演じる名演には及ばず。

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〈君蝶が色仕掛けで落とす伊勢浜役には山茶花究。この人はもっと端役の方が、キャラがいきるのに・・・〉

とはいえ、秀逸な脚本をなぞったこの『肉体の盛装』も佳作と呼べるレベルには達していますので、一見の価値あり。

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この時代のカラー作品は『古都』(松竹、監督・中村登、1963年)同様、京都の町を鑑賞するには、とてもおもしろい時代です。

ただ、『古都』が原作発表から2年経っての映画化で、原作の世界観を忠実に映像に移しているのに比べ、
『肉体の盛装』は前作から13年後と微妙に時間が経ち過ぎていて、因習漂う花街の世界観を崩さずにリメイクするにはギリギリの年代か・・・少し手遅れだったか・・・、むしろカラー作品がその世界観を壊してしまったか・・・。
開業したばかりの新幹線が登場するのも、ちょっと興ざめな感じがしないでもなく。


WS000408_20121213013717.jpg 〈木屋町〉

君蝶の妹・妙子には富司純子。その恋人・孝次には江原真二郎。
配役の賛否はともかく、間違いなく『偽れる盛装』の妙子役・藤田泰子よりも、富司純子の方が華があるのは否めないですね。

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〈妙子が友人の雪子と語らうのは、レストラン菊水の屋上〉

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〈君蝶を斬りつける山下役には西村晃。切羽詰まった表情の独特の濃いメイクが東映作品であることを物語っています〉



桜の樹の下で

2012年12月14日 22:37

桜の樹の下で 監督・鷹森立一 1989年

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京都の料亭の女将と娘が、表面上は親子関係を保ちながらも裏では嫉妬を燃やし、ひとりの中年男を取り合うという、なんとも原作者の願望と妄想を都合のいいように仕立て上げた小説の映画化です。
もちろん、こんな恥ずかしいストーリーを臆面もなく書ける作家と言えば・・・そう、渡辺淳一しかいません(苦笑)。

女将には岩下志麻。娘役にはこれがデビュー作となる七瀬なつみ。そして親子と関係を結ぶ中年男が津川雅彦・・・って、これ以上の“いかにも”な配役もありません。

WS000041_R_20110606230159.jpg 〈黒谷の金戒光明寺〉

舞台は料亭のある京都と、親子の愛人である遊佐の住む東京。そして女将である母親に内緒で娘の涼子と遊佐が旅行をする秋田の角館。

都合のいい娘の妊娠があり、流産があり、そして最後には女将の死があり。ワンパターンメロドラマの神髄が見られる一作です。

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冒頭で遊佐役の津川雅彦とともに座敷で座っているのは、野坂昭如!

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野坂さん、いったい何をやってるんですか?

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妻子とは別居中らしき設定で、北山に住む女将の夫役の寺田農。北山杉の影から手を振るって・・・どれだけ北山を強調したかったのか・・・。

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WS000238_R_20110606230153.jpg 〈文の助茶屋〉


感想は・・・なんとも、渡辺淳一的な映画なのでした。



時雨の記

2012年12月21日 23:34

時雨の記 監督・澤井信一郎 1998年


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時は昭和の終わり。建設会社の専務・壬生孝之助(渡哲也)は、20年前に一目惚れをした堀川多江(吉永小百合)を都内のホテルで見かけた。

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壬生はその後すぐ、夫と死別して鎌倉にひとりで住む多江の元に足繁く通い、付き合うようになる。
二人は多江の愛読する『新古今和歌集』ゆかりの藤原定家の山荘・時雨亭跡を訪れるために京都へと旅行に出かける。
多江の影響で『新古今』を読むようになった壬生は西行の生き方に憧れる。
仕事とも家族とも離れ、二人で吉野に終の棲家を建てようと計画する。

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そんな中、狭心症の発作で壬生は倒れる。見舞いに訪れた多江は、壬生の妻(佐藤友美)に会ったことから、二人の関係を清算しなければと思うようになる。
多江は華道の師匠に請われ、京都で華道教室を開くことを持ちかけられ、京都行きを決意する。

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ところが壬生は妻との別れをすでに決めていて、華道展を開いている多江のいる京都へ。
待ち合わせた時雨亭跡で、またしても発作に見舞われる壬生。
その姿に、すでに多江は壬生と離れられなくなっていたことを知る。

まもなく壬生は発作により、鎌倉の多江の家で急逝。二人で京都に引っ越す前の出来事だった。

・・・あらすじを書けば、こんな感じ。


原作は中里恒子の同名小説。中年男女の接吻以上には発展しない純愛物語・・・だそうで。
吉永小百合と渡哲也だから、まだ見られたものですけど、脚本がなんとも典型的なご都合主義の連続。


まず、夫を亡くしたあと、鎌倉で一人暮らしを続け、華道教室を開いている多江ですが、亡き夫への思いは一切、画面では触れられず。

それに、先代社長の葬儀の場で一目惚れをした女性をずっと思い続けていた壬生が、偶然ホテルで多江を見かけて再会した翌日には、鎌倉の家を訪問していますが・・・そんな行動力があるのだったら、そもそも20年も放って置く前に、相手の名前も知っているんだから再会できただろうに。


さらに鎌倉にある海岸沿いの喫茶店での交際宣言が、

多江「お仕事もご家族だっておありでしょう。こんなお付き合い、いいんでしょうか?」
壬生「僕はあなたが好きだ。だから毎日でも会いたい。それではだめなんですか?」
多江「私、重いお付き合いになるのがだめなんです。」
壬生「重くなければ、いいんですか?それじゃあ、あなたに合わせますよ。軽くても何でもいい。その代わりこれから先いつまでも、付き合ってもらえますか?」
多江は無言で目を伏せながら・・・コクリ。
壬生「そうかあ、独りよがりの不意打ちはいかん。重くならないようにか・・・。よし、そうします。多江さん、どうでしょうか?」
多江は「まあ」と笑顔。

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この展開・・・“中年の一途な思い”でもなんでもなく、昨今流行の中二病的妄想ですネ。


冒頭で渡哲也演じる壬生が友人である庄田(林隆三)に酒を飲みながら恋の行方を説明するという展開もくどい。
「毎日でも彼女に会いたい」って中学生のようなことを言う中年男に、「本気なんだな」とすんなり納得してしまう友人・庄田。
『彼と私はお互い学生の頃からの付き合いで、今さら多くの言葉はいらない友で・・・』と庄田の月並みなモノローグが入りますが、十分説明の言葉が多いっての。

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ストーリーは、昭和63年秋のホテルでの偶然の再会から、壬生が心不全で亡くなる5ヵ月間の出来事でしかありませんが、昭和天皇の危篤から崩御にかけてのニュースがくどいくらいに挿入してあります。そんなにしてまで、この時代性が重要なのかどうか・・・。

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また、壬生が建設会社の重役だからって、新幹線、東京オリンピック、東名高速、万博、日本列島改造論・・・って高度経済成長のニッポンを振り返るニュース映像や新聞を挿入するのも、なんとも・・・。

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定年間際の壬生が、最後の仕事で一週間のスペイン出張に行きますが・・・そもそも、こんな挿話はいらない上に、スペインロケの映像も無駄に長い。

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そして、やたらと酒を飲む場面があって、渡哲也が酒を飲むたびに、「松竹梅~♪」のフレーズが脳内でリピートするかと思えば、やはり協賛は宝酒造。

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京都は友人・庄田が住む地で、壬生と多江の二人は藤原定家の時雨亭があった地にある常寂光寺を訪れます。

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まあ、秋の紅葉の盛りの常寂光時の彩りは綺麗ですが・・・ただそれだけ。

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〈庄田の会社は興正寺の東にある京つけもの「西利」で撮影〉

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〈華道展の会場として大覚寺が出てきますが、嵯峨天皇1150年御忌記念のいけばな展という設定〉



女経 その1

2012年12月22日 22:02

女経 監督・吉村公三郎、市川崑、増村保造 1960年

『女経』(じょきょう)は、村松梢風原作の同名小説を元にした3人の監督によるオムニバス作品。

「耳を噛みたがる女」は、監督・増村保造、主演・若尾文子
「物を高く売りつける女」は、監督・市川崑、主演・山本富士子
「恋を忘れていた女」は、監督・吉村公三郎、主演・京マチ子

3名の巨匠もさることながら、それぞれの主演には大映の看板女優を起用。3作品ともにオムニバス作品の概念を裏切る、素晴らしい出来映え。
これは、原作をイメージして脚本を担当した八住利雄の手腕に負うところも大きかったのではないでしょうか(原作は原作で面白いです)。


この3作品の中で、京都を舞台にした作品は「恋を忘れていた女」だけですが、せっかくですので他の2作品も紹介しましょう。




耳を噛みたがる女(『女経』より) 監督・増村保造


紀美(若尾文子)は隅田川のだるま船で寝起きする貧しい水上生活者。

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しかし夜は銀座のキャバレーに勤め、客の耳を噛み、男を虜にする。

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そして男からだまし取った金で兜町に通って株を買い貯める、ちゃっかり者。

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そんな紀美が本気で恋をしているのは、会社社長の御曹司・田畑正巳(川口浩)。

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田畑と念願のデートをすることになり、結婚を条件に彼に体を許すが、田畑はその気は一切なく、紀美と寝た翌日には財閥の娘との結婚式が待っていた。

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友人・春本(田宮二郎)との賭に勝って、紀美とただで寝ることに成功した田畑だったが、気持ちは釈然としない。
一方、紀美は田畑の結婚を知って、愕然とする。

田畑は紀美が本当に自分を愛していると知り、「ひょっとすると後にも先にも、あんなに惚れてくれた女はいねえかもしれねえ」と春本に打ち明け、親の言いつけと将来の安定を振り切り、紀美がいる五月(左幸子)の部屋に向かう。

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ふて寝している紀美に結婚を申し込む田畑だったが、紀美は「嬉しいのよ、とっても嬉しいのよ。だけどね、嘘なのよ、夕べ言ったこと。みんな嘘なのよ」と、金を要求する。

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「俺を嫌いなのか?」「しょってるわね。生活力のない気まぐれなお坊ちゃん。今はちょっとハンサムで魅力があるけど、いずれはお爺ちゃん」「お前だって婆さんになるで」「だからお金を貯めてますの」「女一人で暮らせるかい」「余計なお世話よ。ほっといてよ」「君は嘘つきだね」「騙されて悔しい?」「ひでえやつだ」「そうね、きっと育ちが悪いのね」「そうかい」(田畑は金を渡す)「ありがと」(金を数える紀美)

かつて、結婚式の日取りが決まっているにもかかわらず初恋の男に捨てられた紀美は、財閥の娘に同じ思いをさせたくないと、強がったのだった。

キャバレー仲間・五月に紀美は言う。「私はだるま船育ちよ。失恋なんてへっちゃら。風邪引いたようなもんよ。さっ、今夜からまたモリモリ稼ぎます」

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・・・格好いい!





物を高く売りつける女(『女経』より) 監督・市川崑


「流行作家三原靖氏・失踪か」の新聞記事で始まるこの作品。

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湘南の海岸で横たわる三原(船越英二)を見つめる白い顔の不気味な女(山本富士子)。

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その女に興味を持った三原だったが、後日、同じ海岸沿いで手紙を燃やす女を見かける。

女は、亡くなった主人の手紙を燃やしていると言い、主人のものはすべて海に帰すのだと。
三原は女が離れた隙に、手紙の切れ端を拾い、そっと懐に忍び入れた。
三原が心配するのをよそに、女は一人で帰っていく。

また後日、三原が海沿いの住宅街を通っていると、女が玄関先に立っていて、三原を招き入れた。

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風呂をすすめる女に従い、湯船につかっている三原の元に、全裸の女が入ってきて、彼の背中を流す。

女は三原が失踪した作家だということを知っていた。

「こんな家に一人で住んでいてはいけないよ」という三原に、女は「もうすぐお終いになります。この家が売れたら」と意味深なことを言う。

自分の実家も主人の実家も東京にあって、この海沿いの家を売り払われ東京に連れ戻される。三原に家を買ってほしいと女は請う。
三原に心を許した女は、名を爪子だと名乗った。

三原は家を買うための手付け金を持って爪子を訪問するが・・・ここで前半の退屈な場面が一転。爪子の能面チックで感情の乏しい不気味な言動は実は演技だった。

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売買契約書にサインをさせ、体よく三原を追い返した爪子。

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再び、三原が海沿いの家を訪れると「急に東京に連れ戻されることになりました。後の事務は左記のところが代行してくれることになりましたので、よろしくお願いします」の爪子の書き置きが残されているだけ。

ここで場面は、代行先の不動産会社へ。

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爪子は不動産仲買人から、契約によって上前をピンハネするブローカーだった。まんまとボロ屋を流行作家に高値で買わせたと、ホクホク顔。

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自室で着物の手入れをしている爪子に、喫茶店勤めの馴染みの娘がやってきて「私もあなたの商売がしたい」と言う。
山本富士子演じる爪子は「この商売はね、少しばかりかわいいぐらいじゃ、だめ。私くらいに、ずば抜けて美人じゃないと成り立たないんだよ」とほくそ笑む。
「でも、スタイルはいいでしょ?」という娘に、「頭がよくなくちゃ、無理ね。だけど、衣装代はうんとかかるし、気は揉めるし、その割には合わない商売さ」と。

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そんな爪子の部屋に、突然やってきた三原。

「ごめんなさい。あんなつまんない家買わしちゃって」と驚いて謝る爪子に、三原は怒りもしないで「あんな家、もう僕のもんじゃない。海のそばに住みたいという奴がいたから、売ってやった。50万儲けたよ」と。

「僕には裸の君の方が、付き合いいいよ」「あなたは高い買い物をするわよ。あたしの売るものはいつも市価より、少し高いのよ」「何を売るつもり?」「婚姻届。あなたとあたしの」「僕は儲けて売るよ。君と結婚すれば、小説のタネは尽きないし、ノイローゼになって失踪することもないからね」「いつも儲かるとは限らないわよ」「いいよ」

海岸で燃やしていた手紙は、爪子の着物の仕立代、洗い代の請求書で、三原は店をたどってやってきたのだった。

「いつも成功するとは限らないね」「よかったわ、しくじって」

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・・・洒落てる!



女経 その2

2012年12月22日 22:02

恋を忘れていた女(『女経』より) 監督・吉村公三郎


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お三津(京マチ子)は元は先斗町の売れっ子芸者だったが、今は亡き夫の宿屋・碇家を継いで、修学旅行専門の宿として繁盛させている。さらに木屋町ではバーを開き、先斗町のお茶屋を株式会社にして重役に座るという、界隈では名の知られた、やり手の女。

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お三津のもとに、義妹の弓子(叶順子)が冴えない恋人・吉須(川崎敬三)を連れて東京からやってきた。金の無心に来たのだった。

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その最中、碇家に泊まっていた修学旅行生が宿の前で交通事故に遭い、重体となる。

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お三津は「何でけが人をうちにいれたんや。えらい迷惑やわ。新聞にも碇家の名前をださんといてもらわんと」と不機嫌。「うちに責任のないことで商売の順が狂たら、どうする気え?」と番頭を怒鳴りつける。

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お三津の心配をよそに、修学旅行の一行は、ケガをした生徒と女教師(小野道子)を残して、奈良へと旅立った。

碇家に再度、金の無心に来た弓子に「弓子はん。男ちゅうもんは女を不幸せにするだけのもんどっせ。女は惚れた腫れたで夢中になりますけどな・・・女ちゅうもんは、欲しいもんでも、したいことでも八分に抑えとくことで初めて幸せになれるもんどっせ」と、吉須が弓子を騙していると疑わず、金を貸すことを断る。

「それは芸者の人生観ね。つまりは打算という事じゃない」と弓子も強く言い返す。「私はね、前々からあなたが死んだ兄さんを本当に愛していたとは思えなかったわ。碇家の財産を狙ってあなた・・・だったらあなた・・・この碇家へ泥棒に入ったのと同じことだわ」

「弓子はん、うちは碇家の財産を倍にも増やしましたえ」
「そりゃ、そうかもしれないけど・・・いつでもお金の多い方へ転ぶというのは芸者の考え方でしょ。でも私は違うの。私はね、騙されてもいいの。後悔はしないは、愛しているから・・・。でも、お三津さん、お金の勘定ばかりしていて、あなた今まで本当に幸せだと思ったことがあって? あったはずがないし、これからもないわ。だってあなた、お気の毒だけど、もう、あんまり若くないのよ」

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〈30代半ばの京マチ子も、若い叶順子にここまで言われては、ぐうの音も出ません・・・〉

そこに助け船のように、電話が・・・。昔の男・兼光(根上淳)からの久しぶりの電話だった。

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木屋町のバーで待っているという兼光の電話を無言で切るお三津。


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〈生徒を看病する小野道子演じる女教師〉

生徒の家は貧乏で、伊勢湾台風で家も流され、修学旅行はおじさんからお金を借りてやってきたのだった。


お三津は隠居している義父(二代目中村鴈治郎)の機嫌をとるため、岡崎の家にいた。
「なあ、お三津・・・どや、今晩一緒にねよか」と誘う義父。
「やめておくれやす。しょうもない」と断るお三津だが、夫が亡くなり碇家を追い出されることを恐れたお三津は義父と関係を持つことで女将の座を得たのだった。

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迫る義父を「あきまへん!」と断り、やってきたのは、お三津が営む木屋町のバー。

そこに待っていたのは兼光で、「本当に好きやったのは、あんさんでした」と懐かしさのあまり、焼けぼっくいに火がつくが・・・警察が乱入。

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兼光は詐欺の容疑で手配されていたのだった。

気を落とすお三津に碇家から電話が。生徒の体調が急変した。
急いで帰ってきたお三津は、生徒の貧しい生い立ちに同情し、「先生、ご心配はどうぞご無用に。碇家で出来るだけのことはさせていただきますさかい」と。輸血が必要な生徒のためにお三津は自分の血を提供する。

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暁どき、生徒の体調が回復したことを聞き、お三津は安堵する。
「甲斐がおしたなあ、女将さん。ほんまにようしておあげなした」とねぎらうお手伝いに、「初めて人のためにな。自分のことしか考えてこなんだうちやけど・・・」とお三津は生徒の様子を見にいく。生徒はお三津を見てほほえみ、お三津はうなずく。

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弓子が恋人の吉須を伴ってやってきた。朝一番の汽車で東京に帰るという。「ねえ、お姉さん。私たちを信じてください」と言う弓子に、お三津は金を差し出した。

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「なあ、弓子はん。あんさんらにあやかって、うちももういっぺんさがしてみよう思う。女のほんまの幸せっちゅうもんを・・・もう手遅れかもしれまへんけど」と照れるお三津。

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3作品の中ではすこしテーマの重い「恋を忘れていた女」でしたが、朝の澄んだ三条大橋にたたずむ京マチ子の姿に、やけにすがすがしさの残る名作の匂いが漂っているのでした。

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