--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

狂った野獣 その1

2011年06月01日 00:46

狂った野獣 監督・中島貞夫 1976年

WS000121_R_20110531233904.jpg


とにかくこの映画を、「サイコー!」と言わずして、どんな映画を評価すればいいのでしょう。ってくらいの映画です。
先に紹介した『尼寺(秘)物語』なんて、中島貞夫の力量からすれば“寝ぼけまなこ”で撮影した凡作でしかありません。
中島貞夫の本領は『序の舞』(1984年)などの文芸大作の中には見あたらないのです。


やはりこの人はヤクザ映画、そしてアクション、なかでもこの『狂った野獣』・・・もうホント、サイコー!なのです。


二人の銀行強盗に乗っ取られた路線バス。劇中では京都の街をほぼノンストップで暴走するのですが・・・。
もちろん単なるパニックムービーでも、サスペンスでもありません。
銀行強盗のひとりが片桐竜次なのは納得として、もうひとりが何せ、川谷拓三なのですから。

WS000151_R_20110531233903.jpg

しかも、バスの後部座席に座っている乗客は・・・渡瀬恒彦!!

東映のピラニア軍団総出演ともいえる俳優陣も、当時の渡瀬恒彦の前では盛り立て役でしかありません。
ところが、渡瀬恒彦がただのメインキャストであったなら、ここまでこの映画を褒めることはないわけで・・・。
バスの中には12名の人質がいて、その人たちのアクの強いこと(笑)。
そして追いかけるはずの警察がマトモであるはずもなく、とくに白バイ隊員の室田日出男の執念といったら・・・(呆)。


それでは、完全ネタバレあらすじ、です。
それぞれの配役に役名はありますが、あまり意味はありませんので、役者名で表記しております。


銀行強盗に失敗し(苦笑)、通りかかった路線バスに乗り込んだ片桐竜次と川谷拓三。

WS000094_R.jpg

運転手を脅して、ノンストップで走らせますが・・・この運転手、心筋梗塞の病気持ち。これが、二人にとって第一の運の尽きでした(苦笑)。


WS000219_R.jpg
〈二人が乗っ取ったのは「京洛バス」(架空のバス会社)の大覚寺から京都駅へと向かう路線バス〉

乗客は・・・、
犬をこっそりと連れ動物病院に向かう途中の荒木雅子。
役をもらって急いで京都駅に向かう駆け出しの女優・橘真紀。
不倫関係にある小学校教師の野口貴史と生徒の母親・三浦徳子。
少々ボケ気味の老人・野村鬼笑。
ラジオで競馬中継を聞き続ける松本泰郎。
パーマのカラーをつけたまま風呂へと向かうホステス・中川三穂子。
チンドン屋の丸平峰子と畑中伶一、そして志賀勝。

WS000111_R_20110531233904.jpg

そのほかに野球帽をかぶり、塾に向かう途中の小学生が二人。

それにしても、ピラニア軍団ばっかりだ・・・。


そして、後部座席で新聞を読んでいたのが、渡瀬恒彦。
渡瀬の手には大きな黒い楽器ケースが・・・。
彼はもともと自動車会社の開発テストドライバーで、目の病を患い事故を起こして、お払い箱に。
そして同僚であった若い女性・星野じゅんが彼を追って会社を辞め、二人して大阪の宝石店で8500万円相当の宝飾品を強奪し、別々に逃走していたのでした。
京都駅で落ち合う道中で、とんだバスジャックに遭遇してしまったのです。

大事に抱えた楽器ケースには強奪した宝石が詰め込まれていたのでした。

WS000181_R_20110531233901.jpg


次第にパニックになる乗客たち。川谷拓三がお得意の「ぶち殺したる!」を連発すると一時は静まるものの、「降ろしてえなあ、堪忍してえなあ・・・オニ! 人でなし!!」とおばちゃんにすごまれると、シュンとしてしまう人の好い拓ボン。

WS000275_R.jpg

おばちゃん役の荒木雅子の「ええ若いもんが、ただボケッと座ってんと、何とかしたらどうやのんな! あんたらそれでも男か! チンチンつけとんのか!!」の言葉に発奮したのか、競馬中継に夢中になっていた松本泰郎が拓ボンに襲いかかります。

WS000153_R_20110531233903.jpg

そこに渡瀬恒彦も加勢するものの、松本が足を片桐竜次に刺されると、またしてもバスの車中は沈静化。


WS000210_R.jpg
〈ラジオの生放送中にバスジャックのニュースを伝えるのは笑福亭鶴瓶。まだアフロだった頃!〉

小学生の二人は唯一のノーマルな乗客だと思いきや、その親が濃かった・・・。
バスジャックを知った小学生の親は、松井康子(ピンク映画草創期の女優さんです)。子どもを心配して、パックをつけたまま警察署に駆けつけます(笑)。

WS000253_R_20110531233942.jpg



スポンサーサイト

狂った野獣 その2

2011年06月01日 00:46

車内では、だんだん心細くなってきた表情の拓ボンとは反対に、乗客同士のエゴや確執が浮き彫りになってきました。

不倫カップルは、関係がばれることを恐れ次第に罵り合い・・・、飼い犬を邪険に扱われたおばちゃんはホステスに掴みかかり・・・、老人はバスジャックも意に介さず、バナナを食べ始め・・・、チンドン屋は演奏を始めてしまいます。

WS000444_R.jpg


その頃、京都駅で渡瀬恒彦を待っていた星野じゅんは、ニュースでようやく事件に彼が巻き込まれたことを悟り、警察署に急行。

WS000344_R.jpg

しかし手がかりをつかめず、駐車してあったバイクを盗んで、バスの行方を捜します。

WS000372_R.jpg
〈この、新人女優の星野じゅんは、セリフは下手なのに、バイクの運転はやけに上手い! というか、このバイクの運転技術を見込んだ起用だったようです〉

WS000300_R_20110531235006.jpg
〈捜査の指揮を執るのは、岩尾正隆〉


なぜか、ここに来てナンバープレートを取り替えるためにバスが停車。片桐竜次がプレートを付け替え戻ってきた隙を見て、渡瀬が逃げますが・・・扉に楽器ケースだけが引っかかり、渡瀬を振り切ってバスは発車!

WS000558_R.jpg


さて、ここからが怒濤の展開の始まりです!!


それまでは、バスの後部座席で一人余裕にふんぞり返っていた渡瀬さん。しかし宝石の入ったケースが車内に残されているとあっては、格好をつけている場合ではありません。

走って、追いかけて、見つけたのは・・・酒屋の自転車。

WS000604_R.jpg


WS000482_R.jpg

そして、中島貞夫監督の悪意ある演出でもあるかのように、街中をバイクで華麗に疾走する星野じゅんの映像と、酒屋のチャリをカシャカシャいわせながら顔を歪ませバスを必死に追いかける渡瀬さんの姿が交互に繰り返され・・・渡瀬さん哀れ(苦笑)。


WS000666_R.jpg
〈回想シーンとして、会社を辞めたばかりの渡瀬と星野がライブハウスで強盗を思いつく場面では、フォーク歌手の三上寛が熱唱中。三上寛は『仁義なき戦い』にも出演するなど、東映とは浅からぬ関係で、『狂った野獣』の公開翌年、その名もズバリ『ピラニア軍団』という軍団総出演のLPレコードを中島貞夫と共同プロデュースしているのです〉


ようやく渡瀬と星野が合流!
そして、スタントマンなしの渡瀬恒彦の男気あふれるアクションの始まり~。
バイクの後部座席から、再びバスにイン~。

WS000723_R.jpg

その姿に、拓ボンがキョトンとするのも、もっともです。

さて、渡瀬さんはケースを持って降りようとしますが、今度は強盗との取っ組み合いでケースが開き、宝石が散乱!

乗客たちは口を開けて、渡瀬さんを呆然と見ています。そう、乗客のみんなが渡瀬さんを、世間を騒がせた宝石強盗だと悟ったのでした。

WS000749_R.jpg

と、ここでタイミング良くというか、悪くというか、運転手に心筋梗塞という爆弾が発生(結局、亡くなられたようです(泣))。
ハンドルを握りながら片桐竜次が「助けてくれ~!」と叫び、バスは蛇行しながら暴走。その間に、警察車両に追いつかれてしまいました。


ここで主客逆転です。ようやく渡瀬さんがバスのハンドルを握って、警察を振り切ります。事故以来、もう二度とハンドルは握らないと自分自身に誓っていた渡瀬さんなのに・・・。
拓ボンも片桐も、もはや渡瀬さんの舎弟と化してしまいました。


ただここでバスの後ろに執拗にしがみついている白バイ隊員が・・・その男は・・・室田日出男でした(笑)。

WS000797_R.jpg

暴走バスはなぜか東映の撮影所の中を突き抜け(完全な制作者の悪ふざけです)・・・パトカーも白バイもなぎ倒し・・・、それでも食らいつく室田日出男。

WS000887_R.jpg

バスはどうやら空き地らしい場所に入り、その先には不自然な建物が・・・。

WS000935_R.jpg

もうおわかりでしょう、「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」の10年以上も前に、この光景が見られたとは!

WS000941_R.jpg

しかし脱落者がひとり・・・そう、室田さんです。
でも室田さん諦めません! 不自然にそこにあったミニバイクにまたがり執念でバスを追いかけます。ガンバレ室田!!

WS000957_R.jpg


車内では泣き叫ぶ乗客たち。拓ボンもやけくそになって歌を歌い出す始末で、チンドン屋も巻紙に遺書を書き出し・・・「父ちゃん、なんで生命保険入ってくれなかったのよ!」と。

WS000991_R.jpg

執念でバスの先回りをした室田日出男。

WS001046_R.jpg

最後の力を振り絞り、バスに飛び乗ろうと歩道橋の上で待ち構えます。
そして、タイミングを見計らって渾身のダイブーー! 

WS001053_R.jpg

も、あえなく不発・・・室田日出男の出番もTHE ENDなのでした。

WS001067_R.jpg



狂った野獣 その3

2011年06月01日 00:47

すでに、車内もパニックを通り越して、意気消沈です(笑)。
新人女優役の橘真紀はせっかくもらった配役がおジャンになった失望と、バスの暴走による恐怖から頭がおかしくなってバスの中に放り出されていた鶏の羽をむしり出しました(苦笑)。

WS001088_R.jpg

川谷拓三は「止めてくれ~。頼むき。このままやとみんな死んでしまう。みんな助けたってくれ!」と当初の立場を忘れてしまった発言。しかしもう主導権は渡瀬恒彦にあるのです。

WS001099_R.jpg

次第に、目がかすみ出す渡瀬さん。しかしバスはまだまだ走り、気がつけば琵琶湖大橋が見えてきました。
そして、琵琶湖の湖畔で追いかけてきた星野じゅんも加わり最後の大カーチェースです。

WS001218_R.jpg


バスがついに横転し、これで渡瀬も片桐も拓ボンも一巻の終わり・・・と思いきや、そうではないようです。

WS001270_R.jpg

投降を呼びかける警察に向かって渡瀬さんがバスのマイクで話します。「警察の皆さん、私は乗客の代表だ。この人たちの要求を聞いてやってくれ。犯人たちは気が立ってる。爆発物も持ってる。このままでは乗客全員の命が危ない。ヘリを一台用意してくれ。警察は我々、善良な市民がどうなってもいいのか」って・・・。

WS001321_R.jpg

悪だ・・・ホンモノの悪だ・・・。渡瀬さん、怖い・・・。

警察は、渡瀬の言葉に従い、上空にいる報道陣のヘリを降下させます。
その間に、乗客たちに車内に散らばった宝石を拾わせる渡瀬さん。
しかし、乗客は拾っている振りをして宝石を・・・ポケットに、カツラの中に、パンツにねじ込んでいます(笑)。

自分が人質役となって、二人とともにヘリに向かう渡瀬恒彦。

WS001356_R.jpg

そして片桐竜次がヘリに乗ろうとした瞬間に、ヘリは急発進!!

WS001369_R.jpg

片桐だけがヘリの足にしがみつき上空へ。

WS001388_R.jpg

そこを警察が容赦なく狙撃!!

WS001390_R.jpg

我を失った拓ボンは警察に突進し、これまた射殺!!

WS001407_R.jpg

「大丈夫か!」と残った渡瀬さんを警察が介抱しようとするも「ションベンさせてくれ」と言って、渡瀬さんはどさくさに紛れて、逃走。

WS001416_R.jpg


事件後には乗客が揃っての記者会見です。

WS001432_R.jpg

記者の「車内の皆さんの雰囲気はいかがでしたか? お互いが助けあったとか、エゴイズムがむき出しになったとか」の問いにも、不倫していた教師は「エゴイズムなんてとんでもないですよ。バスに乗るときは他人同士でしたがねえ。お互い励まし合い、助け合って・・・」と白々しい回答(笑)。

そして、いつの間にか人質全員解放の英雄扱いされていた渡瀬さん。
「英雄を必死に探しているようですが?」と記者が問いかけると、全員が気まずい沈黙。「皆さん、命の恩人でしょう?」。「そりゃもう、恩人も恩人、大恩人だすわあ」と調子のいい志賀勝。

ここで突然、子どもが口を開きました。「でも、宝石泥棒だろ、あのおじちゃん」。

WS001450_R.jpg

記者「宝石泥棒? 宝石泥棒って何のことですか?」
おばちゃん「はは、さあ? 何のことでっしゃろなあ?」
ホステス「ナオちゃん、嘘つきは泥棒の始まりえ~」
全員「そうええ~」

もちろん、全員、渡瀬恒彦が宝石強盗だなんて言えないですよね。宝石をネコババしているのですから。

渡瀬さんのケースの中は空っぽなのでした・・・。
最後に・・・星野じゅんが渡瀬恒彦に呟きます「伸さん(渡瀬恒彦の役名ね)、終わっちゃったね、お祭り。次のお祭り、何やろうか?」と。

WS001475_R.jpg



やはり、東映はこうでなくっちゃ!!

映画の醍醐味は、娯楽。祭りですよ、祭りっ。


タイトル『狂った野獣』の「狂った野獣」とは、もちろん川谷拓三や片桐竜次のことではなく、渡瀬恒彦のこともはなく、まあ、乗客のことであるんでしょうけれど・・・、
やはり監督と役者がいい意味で“狂って”くれなければ、おもしろい映画なんて出来っこないですね。最近の映画はすましてばっかで、全然おもしろくない。



おまけ・・・福本清三さん、みっけ!

WS000386_R.jpg



マザーウォーター

2011年06月05日 00:04

マザーウォーター 監督・松本佳奈 2010年

WS000366_R.jpg


京都を舞台に、ウイスキーしか置いていないバーを営むセツコ(小林聡美)、喫茶店を経営するタカコ(小泉今日子)、そして豆腐屋のハツミ(市川実日子)。どこかよその土地からこの街にやって来た三人を中心に、地元の人間が関わっていくドラマ。ドラマ? いや、ドラマにすらなっていません。

WS000309_R.jpg

さて、「マザーウォーター」は、「かもめ食堂」「めがね」「プール」など一連の霞澤花子という方が企画に携わっている作品の中のひとつです。
今回の監督は松本佳奈。脚本は白木朋子、たかのいちこ。

一連の前作も、「かもめ食堂」ではフィンランド、「めがね」では与論島、「プール」ではタイと、舞台となる土地を活かした脚本になっていましたが、今回は鴨川や白川、そして井戸水に代表される水と関わりの深い街として京都が舞台となり、だから主役級の三人の女性も水に関わる商売をしている・・・ということです。
「かもめ食堂」(監督・荻上直子、2006年)がことさらおもしろかっただけに、期待値が高いという不利な点はさておいて、シリーズ作品が発表されるごとにだんだんと斬新さが薄れてゆき、それでもまだ「プール」までは見られたのですが・・・。

WS000089_R.jpg

さて、この映画、あらすじは語る必要もありません。何も起こらず、人間ドラマになるほど、人と人との交流もなく・・・。
この映画評に頻繁に出されるワードとして「癒し」がありますが、なんだか「癒しは卑しい」と言った誰かの名言が思い出されてなりません(「内容のないユルさ」を「癒し」と無難に表現しているところが、なんとも逃げの表現のようで・・・。何でも「癒し」のワードで片付けられると思う心が「卑し」すぎます)。


まずもって登場人物の会話が退屈。機知に富んだ会話もなく、ウイスキーしか置いていない店って。しかも、その銘柄が「山崎」(サントリーがスポンサーでしたっけ?)。そしてマドラーでウイスキーをかき回しすぎっ。小学生の子どもが父親の水割り作ってるんじゃないんだから・・・。

WS000164_R_20110513105509.jpg

冒頭ちかく、家具屋のヤマノハ(加瀬亮)が客として入ってきた場面で、カウンターの椅子に座った途端に椅子が壊れ、ヤマノハが倒れます。そして女主人のセツコのセリフが「やっぱりダメか。なんかガタガタして調子悪かったんだよね、その椅子」って・・・正義の国アメリカじゃ、訴訟ものです(苦笑)。
しかも壊れかけの椅子を除けなかった理由が「そこだけ椅子がないっていうのも不自然だし」って。この冒頭のやりとりで、小林聡美演じるセツコの人間的魅力バロメーターはすでにゼロとなってしまいました・・・。


最近はめっきり怪優となってしまった、もたいまさこ。この人が演じる初老のマコトがハツミ(市川実日子)の豆腐屋の店先で豆腐を食べたいと言い出したことがきっかけで、登場人物たちが豆腐屋の店頭に置かれた長椅子で食べるシーン・・・それほど、おもしろくないです・・・。

WS000294_R.jpg

若いヤマノハ(加瀬亮)やジン(永山絢斗)に向かって投げかける、マコト(もたいまさこ)やセツコ(小林聡美)の説教じみた話もなんとも浅い。


薄っぺらい役者のセリフより、かわいい子役の赤ん坊がベンチから落ちないかと、観ていて気を取られる始末で・・・。

WS000267_R_20110513105507.jpg


こういう映画を観ていると、小津作品の小津安二郎と野田高梧の脚本がいかに秀逸かが再認識させられます。同じユルさでも、小津作品の場合は会話にウイットがあるから、長回しの単調な場面でも観ていられ・・・いや、むしろセリフを聞かせるために、あのテンポが必要だったのです。


出演している役者がまっとうな演技をできる人間ばかりなのに(永山絢斗もなかなか自然な演技がよく、市川実日子も存在感があるのに)、この脚本と構成では、演技のしようもなく・・・。そんな中で、まあ、赤ん坊がかわいかったことくらいが救いでしょうか。

WS000231_R_20110513105508.jpg

そして、京都を舞台としているにもかかわらず、観光名所を意味もなくカット・インさせなかったことも、買いですかね・・・。


むしろ、マコトのセリフにあった「この街のみんなの子ども」として、赤ん坊をメインに30、40分ぐらいの短編にすれば、少々おもしろい話にはなったのかもしれませんが、30分の短編では映画商売にはならないか・・・。



梶井基次郎 その1

2011年06月06日 00:47

梶井基次郎 著者・中谷孝雄 1961年

20110306191753bb0[1]
 〈『梶井基次郎』 著者・中谷孝雄、1961年、筑摩書房〉

中谷孝雄の著書『梶井基次郎』(1961(昭和36)年、筑摩書房刊)は、小説家・梶井基次郎(1901年―1932年)の人ばかりでなく、作品を知る上でも、もっとも重要で興味深い一冊です。

小説とも、随筆とも、評伝ともとれる単行本ですが、こういった最も身近で梶井に接してきた人の文章に触れてしまうと、あらすじをなぞっているだけの論文や、憶測ばかりの研究書なんて、あまり意味をなさないですね。論文や研究書に書かれた梶井の学生時代の逸話や挿話は、ほぼこれら中谷孝雄や外村繁や淀野隆三らの著書から引用されているものばかりです・・・。



DSC02870[1]
〈三高の寄宿舎は、現在の京都大学吉田寮〉

中谷孝雄については、以前にも述べましたのでここでは詳しく語りませんが、1919(大正8)年9月(当時の学制では9月入学でした)、第三高等学校入学と同時に梶井と知り合い、深い親交は梶井が亡くなる1932(昭和7)年までつづきます。
また、エンジニアをめざして大阪高等工業学校電気科を受験するも不合格となり、三高の理科甲類(当時の高等学校は、文科と理科の両科があり、それぞれが甲・乙・丙の三類に別れていました。甲は英語、乙はドイツ語、丙はフランス語を第一外国語として履修していたのです)に入学した梶井が、
10月、欠員が出たため寄宿舎(現在の吉田寮)に入寮し、そこで同室であったのが中谷との出会いでした(さらに同室には、のちに映画評論家の大家となる飯島正もいました)。
中谷は文科乙類の生徒で、梶井が文学へ傾倒することになった契機は、すべて中谷との出会いにあったようです。



DSC02386[1] 〈哲学の道〉

梶井は一年の三学期(4月)に寄宿舎を出て、吉田山の裏の下宿に移ります。そこは東山の緑が眺望できる部屋で、梶井はたいそう気に入っていたようです。銀閣寺から若王子へと、つまり現在の「哲学の道」を散歩し、「緑ノ夢ノ中ニクルマツテ匂ノアル交響楽ヲ聞ク様ダ」と友人の手紙に語っています。


中谷孝雄は二年生(中谷も梶井も一年の時に留年しています)の春から夏にかけての数ヶ月間、のちに妻となる平林英子と相国寺近くの下宿で同棲生活を行っていて、その部屋には毎日のように梶井が遊びに来ました。1921(大正10)年のことです。
その頃の梶井は病気の再発もあり、大阪の実家から電車で学校に通い、放課後や、時には朝から学校を休んで中谷の部屋で遊んでいました。中谷が記した『梶井基次郎』からは、むしろ中谷との友情よりも、平林目当てに(もちろん異性としての関心ではなかったのでしょうが)通っていた節が見受けられ、微笑ましくもあります。
通学の車中で見かけた片思いの女性への思いを、平林に打ち明けてもいたりして・・・。
また、梶井が汽車通学をやめて、吉田町に下宿していた時、中谷の父親が田舎から息子の暮らしぶりを見に来ることとなりました。厳格な家庭に育った中谷にとって、もちろん彼女との同棲は家には内緒のこと。困った中谷は、梶井の下宿へ平林を預けることにします。父親の三日間ほどの滞在中、何の不安もなく、恋人を梶井に預ける中谷も中谷ですが、それを引き受ける梶井も梶井です(笑)。
その後、中谷と平林が不和となって一旦別れることとなった際には梶井はたいそう惜しみ、またその後、復縁したと聞くといちばん喜んだのも梶井であったのです。



梶井基次郎の愛読遍歴は、中学時代の夏目漱石に始まり、森鷗外、谷崎潤一郎、志賀直哉、武者小路実篤、有島武郎、倉田百三、滝井孝作、川端康成、松尾芭蕉、井原西鶴・・・。その中でも著しい傾倒は、志賀直哉、滝井孝作あたりにあったようです。

その一方で、梶井の京都時代の恋愛遍歴はというと・・・片思いばかりだったようで(苦笑)。

旧制北野中学時代には、父親の知人の娘である高等女学校の少女に憧れ、友人や兄に恋心を打ち明けるも、もちろん叶いません。
三高時代には、通学の車中で毎朝一緒になる女学生に恋愛めいた感情を抱き、自分の気持ちを伝えたいと平林英子に相談。そして、彼は行動にうつすのです。
「ある日、彼は通学の汽車の中で、ブラウニングか誰かの愛の詩集の一頁を裂いて相手の女学生に手渡したのださうであるが、翌日、読んでくれたかといつて彼女に訊ねると、彼女は『知りません!』とつんつんしてゐたといふことである。」(『梶井基次郎』本文より)
まあ、こんなやり方では女の子には、もてませんね(笑)。梶井もこの時の様子を自虐的に友人たちに披露していたことから、どれほど本気だったのかも窺い知れませんが・・・。
その後も、「江戸カフェ」のお初というバタ臭い美女に熱を上げるも、競争者が多くあえなく諦め、また「東洋亭」の芳枝という女性に好意を抱くも、ありふれた片思いに終わったと、中谷は振り返っています。
三年生になった梶井は、白川の下宿から、御所の東にある素人下宿へと移ります。その家の主は三十歳前後の未婚の小学校の女教師で、老母との二人暮らし。二階の六畳間を借りて生活をします。ここは「ある心の風景」の喬の部屋でもあるのです。

DSC00708[1]
〈御所の東・寺町通り。左が鴨沂高校、右が京都御苑〉

老婆も女教師も大そう親切で、娘の方は梶井が寝床で本を読んでいると電燈のコードを伸ばしてくれたり、枕元に座り込んで彼と話したがったりしたそうですが・・・、男女の関係にいたりませんでした。というのも、その女教師は顔立ちのあまりよろしくない、立ち居振る舞いの粗野な女性だったからだとか。

DSC00462[1] 〈動物園横の疏水〉

結局、二年生の時、中谷らと疏水にボートを浮かべて二條から動物園の石垣の下で月見をしたあと、街に出て酔っぱらったあげく「おれに童貞を捨てさせろ!」と祇園石段下の電車通りで大の字になって動かなかった梶井を、近くの遊郭(祇園乙部あたりだったのでしょう)へ連れて行き、その後、幾度か通うようになったことぐらいが、彼のせいぜいの女性遍歴だったようです。





Twitterボタン

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。