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酒場ミモザ その1

2010年08月25日 23:27

酒場ミモザ 著者・とだともこ 1992年~1996年

酒場ミモザ 1巻 酒場ミモザ 2巻 酒場ミモザ 3巻

今回はカルト的人気マンガの紹介です。
その名は『酒場ミモザ』。
すごく月並みな表現ですが、「ほっこり」という言葉がとても似合う作品です。

舞台は京都三条にある、座席7席だけの古びた小さなバー。
そこに集う常連客の他愛もない交流を描いています。
事件が起こったり、華々しい出来事があったり・・・ということは、間違ってもないです(笑)。

1992年から「月刊アフタヌーン」に掲載され、
単行本としても全4巻が発刊されましたが、後に絶版となっています。
その希少性が、さらに作品の評価をあげているのでしょう。


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主人公の女の子は、作者を想起させる芸大を出た絵描きの卵。
主人公といっても、彼女の視点で描かれるわけではなく、あくまで第三者的な立場で控えめに画面の中に登場しています。
むしろ、主人公の一歩引いたこの立ち位置によって、
バーで繰り広げられる常連の会話やエピソードが、
あたかもマンガの読み手がカウンターに座って傍らで話を聞いているような心地よさにさせているのです。

そして登場する常連客もなんとも個性的。この“なんとも”加減もちょうどいいんです。
会社員、大学教授、ミステリー作家、露天商の青年、学生運動くずれの農業家、東京から足繁く通う脚本家、OL、芸者、マスターの娘やその恋人・・・。
登場人物もほとんど実在した方たちのようですよ。

そんな個性的な客に対して、京都の風物に博識のマスターが、鼻につくわけでもなく、うんちくを語ってくれます。
ただしこのマスター、ちょっと京都弁が濃すぎるんですけどね。

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経歴によると当時の作者は京都市立芸術大学出身の売れない画家ということですが、
失礼ながら、素人目にもけっして絵が上手いという感じではありません。
登場人物の顔の雑なこと・・・とくに主人公なんて(笑)。

作者によれば、図書館でマンガのハウツー本を借り、4ヵ月で4話32ページを書き上げたそうですが、
画質の拙さは、むしろ作者の情熱の勢いを表しているようで、いい味を醸しています。
本当にこのバーのことが好きだったのでしょう。
そして改めて思うのは、絵の魅力とは、上手い下手ではないのです。
作品中に出てくる総菜や突き出しや料理の数々も何ともおいしそう。そして登場人物も表情豊かに見えてしまうのです。

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にしんずし、さばずし、夏の和菓子、かぼちゃの煮物、棒だらと里芋を煮た芋棒、湯豆腐、かぶら蒸し、・・・。
さばずしのツンとする匂いが漂ってきたり、かぶら蒸しの湯気も目に見えるようです。いやホントに(笑)。


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売れないミステリー作家の白河さんが大賞を獲り、黄色いハンカチ付きの風船を掲げ、常連客が祝う場面。


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元学生運動家の秋田さんが、学生の時につきあっていた恋人・キクちゃんの息子とミモザで出会い、
馴染みの店へと連れ回し、酒飲みの手ほどきをするエピソード。


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とにかく地元の人間も忘れてしまった、地の京都がふんだんに盛り込まれています。


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時は建都1200年で湧く京都。景観で問題となった京都ホテルもまだ建設中です。


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構想に煮詰まると、たびたび東京から訪れる脚本家のカベさん。



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酒場ミモザ その2

2010年08月26日 00:07

酒場ミモザ 復刻版

「ミモザ」のモデルは、河原町三条を二筋下がった小路に実際にあったバー「リラ亭」で、1990年、マスターの死によって惜しまれながら閉店したそうです。
その後、マンガにも登場する常連客によって「カリン亭」として受け継がれ再開しましたが、2000年にはその店も閉店したとのこと。

また「リラ亭」は、加藤登紀子が歌う『時代遅れの酒場』のモデルにもなりましたが、マンガの印象と歌の感じとはいまいちリンクしないですねえ・・・。
印象の違いは、学生上がりの作者と、加藤登紀子の歩んできた人生の違いでしょうか(いや、重いとか軽いとかって訳じゃないんですよ・・・)。
訪れる人によって印象の変わる飲み屋っていうのは、店主のエゴが少なそうで、なんだか好感がもてます。


“とだともこ”さんは、現在“ほうさいともこ”として(たぶん結婚されて名字が変わったのですね)、寡作ながら、たまにマンガも書かれているようです。
2008年12月号の「月刊アフタヌーン」では、10年ぶりに読み切りとして「もりもり」という作品を書いていました。
それは、京都白川近くの姉弟が営む居酒屋が舞台の人情話。
画力はミモザ時代よりも数段上がったように思えますが、作品の“味”としては、ミモザの方がはるかに・・・上ですね。

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そして2010年5月には、ぶんか社より復刻版『酒場ミモザ』が発刊されました。
1巻から3巻までの中から、20のエピソードが入っていますから、なかなか手に入らないことを考えれば、
これで『酒場ミモザ』の世界観を手っ取り早く味わえます(出来ることなら、全4巻をそのまま復刻してほしかった)。

ただ、興味深いのは、復刻版のあとがきにあった制作当初のエピソードと、連載を打ち切った経緯です。
2代目のマスターに自分のふんどしで相撲を取れと引導を渡されたから、とのこと。
現在は法廷画家をしながら、今後もマンガとの二足のわらじでいきたいと決意を語っていらっしゃったので、
これからもほうさいさんのマンガは読めるようで何よりです。

でもね、他人のふんどしと言っても、誰の人生も所詮、他人のふんどしで相撲を取っているようなものじゃないですか?(笑)。



追記。

自分の周りで、モデルとなったバーを知っている人間がいないかと気にかけていましたら、
何度か行ったことのある人がすぐ近くにいました。
穏和そうなマスターで、外見の印象としては柳原良平がデザインした
トリスウイスキーのイメージキャラクターのおじさんに似ていたとか(行ったことのある方、どうですか?)。
レコードの汚れを食器用洗剤で拭き取って、プレーヤーに掛けたり、
店が混んでくると客がカウンターの中に入ってワイワイと繁盛していた店のようです。

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今では『酒場ミモザ』の古本価格もびっくりするほど高騰しちゃってます(AMAZONで調べてみると、なかなか手に入らない第4巻にいたっては6千円!)。
ちなみに、ごく稀にですが、大手古本店のネット販売で数百円で売られていることもありますので、全編を読みたい方は辛抱強くさがしてみましょう。

これだけ偉そうに語って今さら言うのもなんですが・・・実は第4巻は持っていません。
何千円も出してまで、買う気にならないというよりも、
自分の中では、まだこの物語を完結させたくないのかもしれません・・・。

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酒場ミモザ その3

2011年03月20日 01:08

酒場ミモザ_0002 〈『酒場ミモザ 第4巻』〉


マンガ界のツチノコこと『酒場ミモザ 第4巻』、ようやく手に入れました。


『酒場ミモザ』は京都三条にある、座席7席だけの古びた小さなバーが舞台のマンガで、その店には実際のモデルがありました。河原町三条を二筋下がり、小路を東に入った「リラ亭」です。

1957(昭和32)年に開店した「リラ亭」は、1990(平成2)年にマスターの死去により閉店しました(その後、マンガに登場する常連客によって「カリン亭」と名を変え引き継がれるも、その店も2000年に閉店しています)。

「酒場ミモザ」は1992年から1996年まで「月刊アフタヌーン」に掲載され、単行本として全4巻が刊行されましたが、すでに絶版となり、かなり入手困難な代物となっているのです(特に4巻がね)。

2010年5月には、マニアなファン待望の復刻版がぶんか社より刊行されましたが、その中には20のエピソードしか収められず、しかも第4巻のエピソードはいっさい収録されないという、何とも中途半端なものでした。



さて、世間では狂騒に沸くバブル景気の時も、この狭いバーの中で繰り広げられる物語は、温厚なマスターの人柄をあらわすように、ただただ「ゆるく」「ほっこり」とした人情話や京都の風物詩や料理のことなど・・・連載当時からどこかノスタルジー溢れる逸話ばかり。

しかし、4巻を読み終えると・・・地味なマンガの中にも確実に時は流れていて、4年の連載の間に、登場人物が“成長”していたことがうかがえます。

酒場ミモザ_0004

東京から京都に嫁いできて料理が一切つくれなかった女性が、マスターのアドバイスで姑の口に合うおせち料理をつくれるようになり、
東京に住む脚本家のカベさんが京都に越してきて、祇園で飲み屋を営む小菊ちゃんと身を固める決心をし、
マスターの次女がボーイフレンドだったアメリカ人・スティーブと結婚をし、
父親の料理屋で働いている京女の、しのちゃんに子どもができ、
絵描き志望の主人公が初めての個展を開いたり・・・と。


景観論争で問題となった「京都ホテル」が建てられているカットが描かれていたり、祇園祭の山だし町にある町家が賃貸マンションに建て替えられるエピソードがあったり・・・京都の町が激しく様変わりする中にあって、

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繁華街の一等地にあるミモザの建物も、大家の代替わりによってテナントビルへと建て替えられることとなり、そのテナントビルに入るか、新しいところに移るかという岐路で、ミモザがいったん休業に入る場面で、この物語は終わるのです。


さて、すべてを読んでの感想は、やはり・・・地味ながらも、いいマンガでした。
マスターをはじめとする登場人物の人柄と、そんなマスターを慕う常連客とのやりとりを愉しんで見つめていたであろう作者・とだともこさんの目線。どの逸話も、おそらく狭いバーの中で実際に繰り広げられていた話なのでしょうが、その柔らかで優しい空気感をこのマンガに描ききった作者の感性は、たいしたもの。

惜しむらくも、4巻で終わってしまった物語ですが・・・おそらくこの作者ならもっと長く書き続けることもできたのでしょうが・・・この長さがちょうどよかったのかも、とも思えます。



最後に、第4巻のエピソードを少々抜粋・・・。

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梶井基次郎「檸檬」でおなじみ、今はなき「八百卯」さんも登場です。



主人公が「大地堂」(賀茂大橋の東にある老舗の画材と額縁の店)を出て、ミモザが開くまでの時間つぶしに見つけたジャズ喫茶、その名も「SM SPOT」。同志社幼稚園の近くにあった、実在のジャズ喫茶のようです。

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SMといっても、もちろんそっちの方の意味ではなく(笑)、「SWING JAZZ」と「MODERN JAZZ」のことですね。当時は、京都にも多くのジャズ喫茶があり、むしろ、このマンガが書かれた当時は、すでにジャズ喫茶の流行は去った後だったのです。
純喫茶だった「SM SPOT」の客足が遠のき、主人公からミモザの評判を聞き、ミモザに倣って、夜はお酒を出す店に変わるエピソードが語られています。



夏は京都の水がかび臭くなる、というバーでの常連客との会話から、マスターたちがいい水と空気を求めて日帰りツアーで行く先は、長岡京の「柳谷観音楊谷寺」。

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ここには眼病に効く霊験あらたかな“独鈷水”が湧いているのです。連載当時は、長岡京市や向日市の水道水は100%の地下水だったことも、描かれていたりして時代を感じますね(後に地下水だけでは供給することができなくなり、2000(平成12)年から府営水道の受水を始めるのです)。



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マスターの口ぐせは「おきばりやっしゃあ!」





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