愛のお荷物 その1

2011年11月18日 22:44

愛のお荷物 監督・川島雄三 1955年


あらすじ・・・。

時は戦後のニッポン。人口増加が懸念される中、厚生大臣・新木錠三郎(山村聡)は「受胎調節相談所設置法案」を成立させようと躍起です。しかし新木大臣の熱意はもはや人口問題よりも、一政治家としての威信をかけた大命題だったのでした。

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委員会でも野党議員と丁々発止のやりとりをし、何とか形勢を有利に展開できたと満足げな新木大臣。
ところが48歳になる妻の蘭子(轟夕起子)に20年ぶりとなる懐妊が発覚。
さらに定職にも就かず趣味の電気工作に熱中している長男・錠太郎(三橋達也)と、自分の秘書・五代冴子(北原三枝)が密かに付き合っていて、子どもが出来たことを知り、大慌て。

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政治家としての体面を憂慮した新木大臣は仕方なく、妻に人工中絶をすすめます。その一方で息子・錠太郎と五代冴子との結婚には、家柄を重んじる妻・蘭子と次女・さくら(高友子)の猛反対があり、家庭内のゴタゴタはおさまりません。

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蘭子とさくらが家柄を重んじるのには、さくらには京都に住む元華族の家柄・出羽小路家の亀之助(フランキー堺)との結婚が決まっていたから。

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新木大臣の三人の子どもの中で、唯一結婚しているのが長女の和子(東恵美子)。産婦人科医・荒牧章吾(田島義文)に嫁いだものの、結婚して6年、こちらはいっこうに子宝に恵まれる気配はありません。

そして、新木大臣の父でかつての大蔵大臣・新木錠造(東野英治郎)は、箱根で悠々自適の隠居生活を送っていましたが、その元には若い茶飲み友達がいて、80歳を超えた老齢にもかかわらず、子どもだって出来かねない元気さなのです。

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いっこうに冴子との結婚を許されない錠太郎は、業を煮やして家を飛び出してしまいます。

そして唯一順調だったはずのさくらと出羽小路亀之助との間にも、婚姻を前に子どもが出来たことがわかり、結婚式の日取りを繰り上げなければならないと、さくらは兄の錠太郎と冴子の元に相談に行き、共同戦線を張ることに。
その後すぐに冴子が大実業家・五代友厚の子孫だったことがわかり、妻の蘭子は掌を返したように、結婚に大賛成。

京都に遊説に赴いた新木大臣を待ち受けていたのは、大臣が京都大学の学生時代に懇意にしていた芸妓・貝田そめ(山田五十鈴)。彼女が突然現れたのにはわけがありました。若かりし頃の大臣との間に出来た28歳になる息子・貝田錠一郎(三橋達也の二役)がいることを知らされるのです。東京で新聞記者をしている錠一郎を大臣の力で政治の世界に導いて欲しいという、そめの一生に一度のお願いでした。

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さらに物語は大団円に向かって妊娠がつづきます。新木家の番頭・山口(殿山泰司)と女中・お照(小田切みき)との間にも子どもが出来、子どもにずっと縁のなかった長女夫婦にも待望の子どもが出来・・・と。

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厚生大臣から防衛庁長官に内閣改造で人事を横滑りした新木大臣の「生まれてくるものは、みんなで喜んで迎えてやろう」の言葉で全ての妊娠は一件落着。新木家の座敷に集まっていた一同が、ツワリでのたうち回りながら幕を閉じるのでした。



愛のお荷物 その2

2011年11月18日 22:45

脚本は、川島雄三監督と柳沢類寿の共同脚本。

赤ん坊を「お荷物」にたとえた、なんともブラックユーモアに富んだ、いや、失礼極まりないタイトル(苦笑)。でもタイトルが月並みな「愛の結晶」ではこんなにもおもしろい映画にはなりません。
「日活の明朗諷刺映画」と銘打たれたこの作品、そう、諷刺は明朗でなければ・・・。

戦後のベビーブームを諷刺し、人口抑制を訴えるはずの厚生大臣の家族が次々と妊娠していくという、今の世の中からは想像できないような、おめでたい映画です。

実際、劇中に出てくる受胎抑制の議論は戦後すぐの社会では大問題でもありました。と同時に『愛のお荷物』公開から一年後に成立する「売春防止法」も相まって、“望まれない子ども”に対する人々の関心を突いた話題作ともなったのです(まあ、映画自体は“軽い”の一言ですけれど)。


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〈野党の女性議員として論陣を張るのは、菅井きん。まだ30歳前のはずですが、この迫力です。しかし声は若い〉


この映画は、川島雄三が松竹から日活に移籍してきて撮った第一弾。さらに三橋達也も川島監督の熱烈な誘いを受け、松竹から日活に移籍。軽妙な代議士の息子を好演しています。

三橋達也は新木大臣の息子・錠太郎と、かつての愛人の子・貝田錠一郎、そして劇中劇の時代劇役者の三人を演じています。

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幕末の勤王の志士が、新撰組との立ち回り。場所は嵐山の渡月橋で、『愛のお荷物』の劇中劇らしく、子どもを背負って応戦。そしてその撮影を恋人の五代冴子(北原三枝)と見物している・・・という、遊び心。

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ちなみに、この劇中劇の監督役は脚本を担当した柳沢類寿でした。


京都の元華族の御曹司、出羽小路亀之助、略してデバガメを演じるのはフランキー堺。

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豪華な居間にしつらえたドラムセットで、遠く東京にいる許嫁のさくら(高友子)と電話で話ながら・・・華麗なるドラムソロを披露(笑)。

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京都は新木大臣の遊説先として登場し、家を飛び出し大阪のテレビ会社に勤めていた錠太郎(三橋達也)と大臣の秘書としてお供をしていた五代冴子(北原三枝)が、落ち合う場所としても登場。

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〈まだ、アーケードがなかった頃の寺町三条付近〉

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〈30年ぶりに馴染みの芸妓・貝田そめ(山田五十鈴)と会い、新木大臣が歩くのは巽橋〉