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風船 その1

2011年08月26日 02:25

風船 監督・川島雄三 1956年


あらすじ・・・。

若き頃、前衛画家として少しは名を馳せた村上春樹(森雅之)。しかし、絵の世界には早くに見切りをつけ、カメラ会社「東洋光学」を一代で築き、60歳になった今でも自ら率先して全国の得意先を訪問する日々。

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〈村上春樹役の森雅之と、妻・房子役の高野由美〉

苦労人の父親に対して、息子の圭吉(三橋達也)は何不自由なく成長し、若くして父親が社長を務める会社の営業部長となっていた。
そして彼には戦争未亡人でバーに勤める山名久美子(新珠三千代)という愛人がいて、彼女の一途すぎる愛情を重荷に感じ始めた圭吉は、次第に態度を冷たくしていく。

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〈圭吉(三橋達也)と愛人・山名久美子(新珠三千代)〉

そんなある日、圭吉は都築正隆(二本柳寛)から、一人の女性を紹介される。
都築は春樹の絵の師匠の息子で、世界中を放浪し世間の表も裏も知るナイトクラブの経営者だった。そして紹介されたのはシャンソン歌手・三木原ミキ子(北原三枝)。都築と彼女は持ちつ持たれつの男女の関係だったが、都築は風船のように自分の損得勘定で流されるミキ子を遊び心からそそのかし、圭吉に近づけた。

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〈シャンソン歌手の三木原ミキ子(北原三枝)と都築正隆(二本柳寛)〉

久美子の束縛するような愛から解放されたい圭吉は、正反対の性格のミキ子に惹かれ、ミキ子も大会社の跡取りである圭吉へと都築から心変わりをし始める。

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圭吉には、小児麻痺を患った妹・珠子(芦川いづみ)がいた。体の弱い彼女は友人もおらず、いつも部屋に閉じこもり趣味の絵を楽しんでいたが、兄の愛人の存在に興味がわき、ひとりで久美子のいるバーに足を運ぶ。そして久美子の一途な性格を見抜き、慕うようになっていた。

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その頃、春樹はかつて世話になった下宿先の娘・阿蘇るい子(左幸子)のポートレイトを京都の得意先の店先で見かけた。店主の話によると夜は木屋町の「おそめ」バーで働き、昼はヌードモデルをしているという。モデルの仕事は、学生である弟・達次郎(牧真介)の学費を稼ぐ為でもあった。

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春樹がかつて京都に下宿していたのは、仕事が立ち廻らなくなった不遇の時代。日ごと、その下宿先から大徳寺に参禅しては失意の底を噛みしめていた。


しかし、自分が仕事で成功した今、貧しくても健気に生きる、るい子姉弟の姿に感銘を受け、生きる初心を取り戻す。その一方で、気がかりなのは苦労を知らず奔放に振る舞う自らの息子・圭吉のこと。

春樹の杞憂は的中する。圭吉の気持ちが自分から離れたことを知った久美子が服毒自殺を図った。心配した珠子が一晩中、久美子の枕元に付き添い一命を取り止めるが、圭吉はついに姿を現さなかった。しかも代わりに現れた圭吉の母・房子(高野由美)は手切れ金を持参し・・・、久美子はまたもやガス自殺を図り、ついには亡くなってしまう。

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思いやりと誠実さに欠けた圭吉の素行が招いた不幸だと憤り、また甘やかして育てた自らを律する春樹は、圭吉を会社から追放し、自分も社長を退く。そして京都のるい子が住む二階に、かつてと同じように下宿し、趣味の絵を描きながら余生を過ごそうと決意した。ただ、自分についてきてくれると思っていた娘の珠子が東京に残ると言ったのだけが、心残りだった。

春樹の気楽な京都生活が始まったが、気がかりなのは障害を持った素直な娘・珠子のこと。
そして京都の生活にも慣れてきたお盆の夜、盆踊り会場へとるい子に連れてこられた春樹を待っていたのは、浴衣に身を包み楽しげに踊る珠子の姿だった。

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風船 その2

2011年08月26日 02:25

映画『風船』の原作は、1955(昭和30)年1月から9月まで『毎日新聞』に連載された大佛次郎の同名小説。

脚色は、監督である川島雄三と、当時チーフ助監督をつとめていた今村昌平。川島監督の愛弟子でもある今村にとっては初めて映画の脚色に携わった作品で、次の年の『幕末太陽傳』(監督・川島雄三、1957年、日活)では田中啓一、川島雄三と共に脚本に名を連ね、映画の評判の高さと相まって今村の名を世に知らしめることとなりました。

WS000860_R.jpg 〈京都国立博物館〉

川島雄三作品の特徴として、“監督独自のシニカルな目線による重喜劇”が挙げられますが、この『風船』はあくまでシリアスな一作。
この作品のモチーフを有り体に言えば、戦前と戦後の世代間の者の考え方から来る齟齬や価値観の違い。そして戦後10年経って、復興の目処も立った時、本当の幸せとは何なのかと、ふと立ち止まって考えてみた・・・というような、決してこの時代には珍しくない映画の主題ではあります。

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しかし、この映画は・・・、

村上圭吉(三橋達也)、シャンソン歌手・三木原ミキ子(北原三枝)、圭吉の母・房子(高野由美)の微塵も画面から伝わらない魅力のなさ(もちろん、これはこれで、映画の演出としては成功しているわけですが・・・)。

それに対し、小児麻痺を患い、無垢で純粋なまま育った村上珠子役の芦川いづみ(多くの作品でヒロインを務めた芦川いづみですが、そのなかでも最も輝いていたのが、この作品です)。

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そして京都で姉弟睦まじく暮らす阿蘇るい子(左幸子)、達次郎(牧真介)。

この両極端のキャラクター豊かな人物設定に加えて・・・、結局、人に対して冷淡にもなれきれず、山名久美子(新珠三千代)の自殺にも心を痛めるナイトクラブの経営者・都築正隆(二本柳寛)のような配役も加えて、単純でありきたりな“世代間の相克”を超えた見応えのある名作に仕上がっています。



村上春樹(森雅之)が昔世話になった下宿先の娘・阿蘇るい子(左幸子)の写真を見かけるのは、三条河原町の「ムツミ堂」。

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そして、るい子が勤めるバーが、かの有名な「おそめ」。
店主の“おそめ”さんこと、上羽秀さんは、川口松太郎の『夜の蝶』のモデルとなった有名マダムで、京都のほかに銀座にも店を構えて飛行機で両店を往復していたことから、“空飛ぶマダム”との異名もありました。

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当時、木屋町にあった「おそめ」には、小津安二郎、里見、吉井勇、川端康成・・・と映画関係者や文豪たちの多くが贔屓にしていて、もちろん『風船』の原作者・大佛次郎もそんな馴染み客の一人だったのです。
今では生きる伝説となった“おそめ”さん自身も、映画の中では本人役で登場。

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また、この映画は、映画衣裳の分野で活躍しつつあった森英惠が「衣裳デザイン」として初めてクレジットされた作品としても知られています。


芦川いづみのデビューのきっかけは、松竹歌劇団に属していた頃、ファッションショーの出演中に川島雄三監督に見いだされ、同監督の『東京マダムと大阪夫人』に起用されたこと。そして川島監督が1955年に松竹から日活に移ると、芦川いづみも松竹歌劇団を退団し日活に入社するほど、監督と役者としての信頼関係があったからこそ・・・この作品でのように彼女の純粋な可愛さが映し出されもしたのです。

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この『風船』には数々の京都の名所が登場します。特に、劇中の中ほどでは、父親に連れられ京都にやってきた珠子が、るい子とともに観光バスに乗り町を巡ったりもしています。

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〈観光バスから眺める八坂神社〉





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